【第四部】第九章 青龍の解放
【一方その頃】
――“中つ国”東の山・青龍の聖域――
青龍の聖域に妖獣達が集まっていた。
朱雀、白虎、黄龍。青龍の眷属達。錚々たる顔ぶれだった。
「まさか、親父殿が目覚めるなんてな」
白虎が上空をたゆたう巨大な黄色の龍――黄龍を見上げて言う。“親父”呼ばわりはしているが、もちろん血縁がある訳ではない。
自分達妖獣の長――中つ国の頂点である黄龍を、敬愛の念を込めてそう呼んでいるのだ。
「うむ。情けない話だが、“奴ら”に追い込まれた余の窮地を救ってくれたのは父上でな。余も驚いたものじゃ」
朱雀は黄龍を“父上”呼びだ。やはり血縁は無いが、父のように慕っていた。
そして、上空から重々しい声が響いてくる。
「うるさくてたまらん。オチオチ寝てもいられんわい」
見た目の威容からは想像できない気さくさだった。初めて見る者達なら違和感を感じるだろう。だが、これこそが黄龍の素だった。
妖獣皆から笑いが起こる。
「さて。では始めるかのぅ」
朱雀が“青龍の封印石”を持って聖域の中央に向かう。
――そう。西にある白虎の聖域で白虎と合流した朱雀は、白虎の『どうせなら、青龍の聖域で執り行わないか』の提案により、人化した白虎を背に乗せて青龍の聖域まで飛んで来たのだった。
そして、黄龍や青龍の眷属達と合流して今に至る。なお、傷を癒した青嵐もこの場にいた。
敵の煽りに乗せられ、無関係な人間達を攻めたことを黄龍からこってり叱られ、だいぶしょんぼりとしていた。
何はともあれ、皆が見守る中、朱雀は聖域中央に青龍の封印石を置き、今まさしく青龍を解放するところだった。
ルーカスより教わっていた解放のための詠唱をする。すると――
◆
薄青い大きな封印石がまばゆい光を放つと、やがて巨大なシルエットを取る。光が収まった先には――
「――――んんっ。ようやく出られたか。済まないな、お前達。世話をかけた」
巨大な青い龍が現れた。皆のよく知る青龍であり、眷属達から歓声がわき起こる。
「気分はどうだ?」
「違和感は無いのじゃな?」
「ああ。奴ら、我を洗脳しかけておったが、今はその名残もない」
白虎、朱雀がホッと一息つく。
「まさか、我が遅れを取るとはな。お前達が解放してくれたのか? それとも、父上が?」
「それなんじゃがな。実は――」
そうして、無事解放された青龍に朱雀と白虎は事のあらましを語り聞かせるのだった。




