【第四部】第七章 帝国
「えっと……聞いたこともない国だな。東の海を越えた先って、“和国”よりももっと先か?」
ソフィアから、博士達“マスカレイド”が東の海を越えた先にある“ヴィシレ帝国”の研究員だと聞かされるが、神楽はそんな国があることすら知らなかった。
加えて言うと、和国の東に大陸があることすら知らなかった。そんな話、聞いたこともない。
「ええ。和国よりもずっと先。位置的には、和国の北東ね」
なるほど。位置関係のイメージは持てた。
「でも、飛行妖獣じゃ海は越えられないだろ」
さすがに休まずずっと飛ぶのは無理だろう。
「中つ国大陸の北東部沿岸に船を隠してるはずよ」
「マジか……。――“獣界”だぞ?」
にわかには信じられないが、ソフィアは確信を持ってうなずく。
「渡って来る時に船で来たから間違いないわ。見つかって壊されてなければまだあるはずだけど。海岸沿いの洞窟の中に巧妙に隠してたから見つかりにくいと思う」
なるほど。地下トンネルを掘ったり地下施設を建設したり、海岸の洞窟に船を隠したり。コソコソするのが上手い奴らだ。それはともかく――
◆
「ソフィアも帝国出身なのか?」
話の流れからそう思われるが、気になる。
「ええ。帝国の辺境に住んでいたんだけど、捕らえられて以来、こんな感じ」
ソフィアが少し悲しそうに笑って言う。そうだ。自分だって……。神楽は無遠慮に踏み込んだことを申し訳なく思う。
「その……ごめん」
「いいのよ。あたし達はみんなそんな感じ。カグラだってそうだったでしょう? あの施設で“造られた”子も多いけど」
そうなのだ。あいつらに故郷を襲われて大事な人達を殺されて……。そして、神楽達のような珍しい力を持った人間は施設に連れていかれて身体をいじられる。
あの時見た研究室の中の光景を思い出すだけで吐き気と怒りが込み上げてくる。
「なぁ。なんであいつらはあんな“残酷な所業”ができる? あいつらの“目的”は一体なんなんだ?」
「それも帝国が関係してるのよ。あたしの知ってる範囲でだけど、話すわね?」
相手の目的がわかれば、それを逆手に取ることもできる。神楽がうなずくと、ソフィアは帝国とその研究内容について語り出すのだった。




