【第四部】第四章 あの後
――“御使いの一族”隠れ里・春と楓の家――
マスカレイド研究施設での戦いの後、稲姫達は合流した皆と共に、負傷して意識を失った神楽を西にある“御使いの一族”の隠れ里まで急ぎ運んだ。
神楽の輸送には、信じられないことだが朱雀が請け負ってくれた。神楽を乗せて急ぎ隠れ里まで急行してくれたのだ。
そして、そこには一人、稲姫達の知らない男も同行した。
◆
――朱雀との合流場所――
「よう。久しぶり」
「貴様は! 青龍の聖域を荒らしておった不届き者か!! やはり生きておったか!!」
髭面の男が『よっ!』と手を上げると、朱雀はすぐさま臨戦態勢に。慌てて他の皆が止めに入った。
「“宵の明星”の“放浪者”だよ! レインが念話で伝えた通り、青龍奪還の立役者だから!!」
「……封印石はここに」
『俺だと朱雀に襲われるかもしれないからお前が渡してくれ』と髭面の男――ルーカスから託されていた“青龍の封印石”が入った箱を、レインは朱雀に手渡そうとする。
朱雀は目をパチクリさせた後、気まずそうに「た、大儀であった!」と尊大にそれだけ言うと、大事そうに箱を受け取った。
中からは確かに青龍の気配がする。力強く頼もしい。それ以前に大切な仲間だ。再び会えたことが純粋に嬉しい。朱雀の顔から険が取れた。
「こいつらに青龍の洗脳は解かせてある。出し方もわかった」
ルーカスが親指で指す先には白衣を着た男達がいる。こちらを見てビクビクと震えている。――そうか、こいつらが青龍を……。
朱雀の怒りが瞬時に再燃し、烈火のごとき激情が研究員達に向けられた。
「――ひ、ひぃっ!!」
「許してくれ!」
研究員達はみっともない命乞いをしながら地べたに膝をつく。それを見た朱雀は苛立たしげに舌打ちすると――
「念のため、白虎立ち会いのもと青龍の解放を行う。――まずは神楽の手当てじゃ」
「いいのか?」
ルーカスが驚いたように目を見開き朱雀を見る。朱雀は意識を失ったまま琥珀に背負われている神楽を見て、皆――ルーカスと研究員を除く全員――を見回して告げた。
「余らは受けた恩には報いる。――それに、神楽……いや、其方らは余らの“友”じゃ。なら、助けるのは当たり前じゃろ?」
朱雀のその言葉に皆が笑みをこぼす。そして――
「ほれ。さっさと乗るのじゃ。――あ、全員は無理だから、眷属達に乗ってついてまいれ」
朱雀が目配せすると、上空を飛んでいた眷属達が地面に降り立つ。次々と皆を乗せていった。
だが、ルーカスはどうしたものかと頭をかく。研究員達をギルドメンバーに引き渡さなければいけない。だが、アレンにも付き添いたい……。
そんな時――
「ルーカス。後は任せてくれ。久しぶりの再会なんだ。“息子”と仲良くね」
「尋問は得意分野」
「――隼斗。刹那もか」
こちらに歩いてくる者が二人。“宵の明星”の仲間だった。事情はもう察しているようで、渡りに船だ。
「悪い。助かる。――まぁ、一応助命を受けてるからな。素直にこちらの言うことにも従ってるし、命までは取らないでやってくれ」
「こ、殺さないでくれ!! 知っていることはなんでも話す!!」
白衣の研究員達が隼斗と刹那にすがる。
「わかった。殺さない」
刹那が短くそう答えると、研究員達からホッと安堵の吐息が漏れた。
「『死ぬより苦しいことがある』って教えてあげる」
「刹那。程々にね。――あ、僕にも少しやらせてくれ。“あいつ”に逃げられて、この感情をどこにぶつけていいか困ってたんだ」
冷徹な目をした二人から射すくめられ、研究員達がへなへなと腰を抜かした。
(――憐れだな。まぁ、自業自得か)
「じゃ、行ってくる」
それだけ言い残すとルーカスも朱雀の眷属に乗り、他の皆と共に隠れ里を目指して飛び立つのだった。




