【第四部】第三章 門の先には
「まずはじめに。“ここ”は、カグラ達のいた世界とは“別の世界”です!!」
「はぁ?」
あ、しまった。思わず素の反応が出てしまった。
神楽が気まずそうにソフィアを見ると――
案の定、ソフィアはふてくされていた。頬をふくらませてそっぽを向いている。
「いいよもう。信じないなら話さない」
「わ、悪かった! でも、いきなり常識を覆すことを言われたら、こんな反応になるのも仕方ないだろ!?」
謝るが、一応苦情は言っておく。「それもそうね」とソフィアはすぐに切り替えて続きを話し出す。
――だんだんソフィアの性格も思い出せてきた。昔から結構振り回されてたなぁと思わなくもない。
◆
「カグラ。妖獣達の力が使えたでしょ?」
「ああ。うちの一族――“御使いの一族”の権能――<神託法>だろ?」
なぜか話が飛んだが、素直にうなずいておく。
「じゃあ、どうやって力を使えてるかはわかる?」
「“信頼関係を築いて”だな」
「それは過程の話よ。“原理”はわかる?」
「妖獣達は“門”を通じて力を得ているんだ。そして、うちの一族は、信頼関係を築いた妖獣と同じ門から力を得ることができる」
神楽は自分の知る限りの情報をソフィアに伝える。ソフィアはまんぞくげにウンウンとうなずき、人差し指を立てた。
「じゃあ、“門”の先には何があるでしょうか?」
「? “力”だな」
何を当たり前のことをと思うが、神楽はそのまま伝えた。しかし、ソフィアの反応は――
「半分正解! 正しくは、“この世界”でしたぁ!!♪」
「はぁ?」
(あ、しまった……。またやってしまった!)
「わ、悪い……」
「いいよ……。話を先に進めたいから、続けるね?」
若干イジケつつも、ソフィアは話を続けてくれた。
「つまり、“門の先には世界が広がってる”の」
「なんでそんなことがわかるんだ?」
素朴な疑問だ。だが、ソフィアは当たり前のように答える。
「それが私の能力。“門を開いて中と外を行き来できる”の。“精神体”でだけどね」
――神楽はどうツッコんでいいのか悩むのだった。
◆
「じゃあ、何か? 今のソフィアは“精神体”?」
「そうだね。――あ! ちなみに、今のカグラもね」
そう言われても、ぜんぜん実感がわかない。
「五感はあるし、こうして触り合えてるじゃん」
「――んっ」
ふとソフィアの手を取る。ソフィアがピクリと反応した。スベスベだ。そして、温かさも感じる。
「ここでは精神体でもそういうことができるの。あたしも上手く説明できないけど、そういうものだと思っておいて」
「わかった」
ちょっと引っ掛かるが、ソフィアが嘘をつく理由もない。神楽は素直にうなずいた。
「ちなみに、前までカグラは“身体を動かせなかった”し、“聴覚も不完全”だったでしょ? それはね――」
「ソフィアの力を不完全に使っていたから? ソフィアの“門”を通じて同じ力を使えたけども、無意識レベルでの使用でなおかつ力も弱かった?」
「正解。――もう。あたしが言いたかったのに……」
またもソフィアはふてくされてしまった。今はそれよりも――
「力が使えたのは“信頼関係を築けてたから”。それはわかる。でも、弱まってて、今回復したのは?」
「力が弱まってたのは、あたしのことを忘れちゃってたからでしょうね。でも、“心は繋がってた”! だから力が使えたのよ!!」
ソフィアがスゴく嬉しそうだ。面と向かって言われると、少し気恥ずかしい。
「じゃあ、弱まってた力が回復したのは……」
「カグラとあたしが“再び繋がった”のよ。“あの時”、神楽はあたしを思い出して名前を呼んでくれた。それに、あたしも“向こう”に出てたし、神楽が一時的にでもあたしに触れてくれた。だからまた繋がりができたのよ!」
ソフィアのそのセリフで、神楽は“あの時”自分達に何が起こったのかを思い出すのだった。
――自分が致命的なダメージを負ったということも。




