【第三部】第九十ニ章 第一研究室
――“マスカレイド”研究施設・第一研究室内――
「ここは……」
神楽達がAブロックを抜け先に進むと、“第一研究室”のプレートがついた部屋を見つけた。今までと同様、魔素を流し込み解錠して扉を開いた。研究室内に飛び込み、神楽はすぐさま周囲を見回す。が――
「誰もいないでありんすね」
そう。もぬけの殻だった。ここが突き当たりのはず。すれ違ったはずもない。一体どこに……。
「怪しい場所がないか、徹底的に探すぞ!! 時間がない! 急ぎで!!」
神楽、稲姫、ピノは研究室内を調べ始めた。
◆
「これは……」
「どうしたでありんす――あ……」
神楽は、とある培養槽の前で足をとめる。“中は空”だ。緑の透明な液体だけが満たされている。だが――
神楽はそっと培養槽に触れた。“懐かしい”気配。そうだ。“彼女の”気配を感じる。稲姫も気付いたようだ。
「それほど時間は経ってないと思う。――急ごう」
「床を調べてみるでありんすよ」
神楽達は気を取り直してすぐさま隠し通路探しを再開する。稲姫の言う通り、地下トンネルを作ったり、地下にこんな巨大な研究施設を造るような奴らだ。床が怪しいかもしれない。
神楽と稲姫は、床に集中して魔素の流れに異常がないかを調べ始めるが――
「? ――あ、こっちから風が吹いてきてますの!!」
離れた場所で同じく隠し通路を探していたピノに呼び掛けられ、すぐさま神楽達はかけよるのだった。
◆
「これはまた……」
「天井だったんでありんすね……」
ピノが指差す先――天井を見ると、見た目は普通の天井だが、ピノの言う通り、少しだけ風がもれてきている。確かに、地下から逃げるなら上か……。
神楽は机をよせて足場にして天井を調べてみる。今までのような魔素回路のようなものは見当たらないが……。
「ちょっと離れてろ」
二人にそれだけ言うと、<肉体活性>して天井をぶんなぐった。
――バガッ!
小気味よい音がして天井に穴が開く。そこには、はしご付きの上への抜け道があった。穴の入り口付近には、元々は鍵がかけられていたのだろう、今は壊された魔素回路の名残が。
「あいつら……。用済みだから魔素回路をつぶしやがったのか。気が付かないわけだ。――ピノ、お手柄だぞ!!」
「はいですの!♪」
ほめられてピノはご機嫌だ。本当によく見つけてくれたと神楽は心から感謝する。
「むむむ……。ピノちゃんには負けないでありんすよ」
稲姫が珍しく悔しがっている。見た目の年格好も似ているし、ピノに対抗意識があるのかもしれないな。――と、そんなことより。
「じゃあ、はしごを下ろすから気をつけて登ってくるんだ。急ぐぞ! “青龍の封印石”も持ち去られてるはずだ!!」
「わかりんした!」
「はいですの!」
神楽達は急ぎはしごを登り、逃げた敵を追いかけるのだった。
――そして、事態は最終局面を迎える……。




