【第三部】第九十章 <爆発操作>
――Aブロック・出口付近――
琥珀達がS―04と闘っている頃、第一研究室近くでの闘いに決着が訪れようとしていた。
「――かはっ! ――なん、なのよ!? 一体、何なのよ!?
あなた達は!?」
「時間が無いんだ。呪うなら、俺達の前に立ちはだかった自分の不運を呪ってくれ」
S―03。マスカレイドの中でも最大戦力であるSナンバーズのナンバー3だ。アルファベットと数字がそのまま組織内での立ち位置を意味する。そして、Sは最上位。つまりは、敵方で上から三番目に位置する戦闘員だった。
神楽も一時期はS―03の記号を与えられていた。その神楽が失踪した穴埋めで繰り上がり昇格したのだろう。目の前の少女は現役のS―03を与えられていた。つまりは、この闘いは新旧S―03同士の闘いを意味している。
しかし、その勝敗はあまりにあっけなく着いた。それは、今S―03が壁際に座り込み立ち上がれないことからも明らかだろう。
◆
S―03も最上位のSナンバーズらしく、突出した技能を有していた。
――<爆発操作>
接触、非接触問わず、任意の対象を爆破する能力だ。また、爆発物の生成も可能で、爆発のタイミングはある程度遅延操作も可能。
凶悪な能力だ。相手が普通であれば。
だが、残念ながら神楽も稲姫も普通じゃない。
一度目は結界を張って防いだ。相手も最初は舐めていたのか、それとも様子見だったのか、威力は弱めだった。
だが、その一度でこの爆発の仕組みを神楽と稲姫は読み解いた。
◆
「主様! “火属性”でありんす!!」
「ああ! <魔素分解領域>を火属性に限定して展開するぞ!!」
S―03の<爆発>。やっていることは単純だった。
火属性魔素を高圧縮して燃焼を生じさせ、それにより生じる気体の体積膨張をどうやってか閉鎖空間内に閉じ込める。そして、タイミングをはかって敵の近くで閉鎖空間を解放し爆発させる。
ならば、大元の火属性魔素の供給を断てばいい。稲姫の<魔素操作>にはそれが可能なのだから。
神楽と稲姫は火属性魔素を排除するよう調整した<魔素分解領域>を自分達の周囲に展開した。
それだけで神楽達の近辺では爆発は起きなくなる。領域範囲外の爆発であれば、結界でも余裕を持って防げた。
サンクエラの渡してくれた<結界>の効果が付与された“絆石”も大いに役立っている。
あろうことか、S―03はまず稲姫とピノを狙った。瞬時に爆発の性質を見極めて助言した稲姫を危険と判断したのだろう。
だが、二人の近辺にも<魔素分解領域>があるため爆発させられず、仕方無く領域範囲外で爆発させてきたのだ。
それでも普通なら、物理現象としての爆発の余波は領域内を通過し二人を襲うはずだった。だが、二人のまわりに張られた絆石による強固な<結界>がそのことごとくを阻んだ。二人には傷一つ付いていない。
「イ、インチキでしょそんなの!?」
「なに稲姫達に手ぇ出してんだっ!!」
「――がはっ!!」
女だろうがこの世界では関係ない。大人より強い子供もいれば、男より強い女だってざらにいる。――いや、それでも普通なら女性は手厚く扱われるが、今は互いに命をかけた戦闘中だ。
実際、今も大切な仲間を危険にさらされたのだ。神楽にはS―03にかける容赦は一切持ち合わせていなかった。
神楽の一方的な蹂躙が続いた。




