【第三部】第八十七章 猫と虎と
――研究施設内・Aブロック・入口付近――
「これでぇ! ――最後にゃあっ!!」
神楽達がS―03と交戦を始めた頃、Aブロックの入口付近で敵の大群を足止めする役を買って出た琥珀と猛鋭の戦いに終わりが訪れていた。
足止めとは言うが、既に状況は“殲滅”と言えた。琥珀や猛鋭の周りに立つ敵の警備員や戦闘員はもういない。その全てが地に伏し、かろうじて息のある者でも起き上がれる者は皆無だった。
琥珀と猛鋭は、発動していた<肉体活性>と<闘気解放>を解く。すると、二人の身体を包む、肉眼で視認できる程の強烈なオーラが霧散した。
同じ猫科だからか、猛鋭は琥珀と同様の身体強化に秀でていた。神楽のような特別枠を別として、自分以外に<闘気解放>まで出来る者は見たことが無かったので、琥珀としてはかなり新鮮味を感じていた。
「猛鋭も<闘気解放>できたにゃね?」
「むしろ、こちらが驚いています。これは、白虎様を始めとし、眷属の中でも少数の者しか使えない、奥義と言ってもいい技なんですよ? それに、琥珀殿のは私のよりも練度が高い」
琥珀としては、少しだけ面白くない。今まで自分の専売特許だと思っていただけに、アイデンティティを失った気分だ。
「そう深く考える必要も無いでしょう。私も貴方も、“門”を通じて力を得ている。その繋がる先が、同じだけだったこと。しかし、その深奥がどこまであるかはわからない。ならば、精進するのみではないですか?」
「むぅ……。なんとなく言いたいことはわかるけど……、なんか嫌にゃあ!」
「そう言われましても……」
むくれた琥珀が両腕を振り回して抗議するが、猛鋭としては如何ともしがたい。そういうモノとして受け入れるしかないのだから。
琥珀と猛鋭がそんなことを話し合っていると――
「――琥珀殿っ!!」
「わかってる、にゃ!!」
突如、琥珀の元に降ってきた何かに琥珀が裏拳をかます。こんな現れ方をするのなんて、敵しか有り得ないのだから。しかし――
「むっ……」
裏拳は片手で止められていた。琥珀はバックステップでソレから距離を取る。
「また仮面……もうウンザリにゃ」
「今までの奴らとは格が違うようです。お気をつけて」
琥珀や猛鋭の言う通り、ソレは仮面をつけていた。そして、並々ならぬ気配を放っている。
身体は巨漢で、筋骨隆々の偉丈夫だ。見るからにパワータイプであり、琥珀や猛鋭と同様、身体強化に秀でていそうだ。
先程の琥珀の一撃を難なく受け止めたことからも、まず間違いないだろう。
実はこの巨漢こそが、博士の指示で送り込まれたSナンバーズ、それも上位者のS―04なのだった。
「じゃあ、やるにゃよ? 猛鋭っ!!」
「ええ! 注意は怠らず攻めましょう!!」
こうして、S―04と琥珀&猛鋭の戦いの火蓋が切って落とされる。




