【第三部】第八十六章 先へ
――研究施設内・Aブロック・入口付近――
Aブロックに入り、厳重な警備が敷かれているのを目の当たりにした神楽達は、ここから先は力業の実力突破だと、急襲を敢行した。
そして、研究施設全体にけたたましく鳴り響くサイレン。“青龍の封印石”はAブロックを抜けた先にある第一研究室だ。迅速にたどり着く必要があった。
しかし、Aブロックはなにぶん広い。そして、次から次に警備員や戦闘員がわいて出てくる。中には手強い者も混じっていた。
「ご主人達は先にいくにゃ! こいつらはうちがやるにゃ!」
「なら、私も付き合います」
琥珀と猛鋭が大群の相手を買って出る。
猫と虎。近接戦闘において、神楽達の中でも特に強い二人だ。この敵味方入り交じる乱戦では、この長所が特に活きるだろう。
「任せた! だが、無理はするな!!」
笑って応える二人を頼もしく思いつつ、神楽達は先へと進んだ。
◆
――Aブロック・中間地点――
先に進むと、敵の大群が待ち構えていた。先程の区画よりも幅が広く、敵は遠距離攻撃も頻繁に混ぜてきた。
「ここは僕らがやるよ!」
「任せとけ!!」
「……魔法なら負けない」
「うむ。ここならわらわも戦いやすい。我が君――」
「はい! エーリッヒさん達にお任せします! 青姫も無理はするな!」
四人だけで大丈夫かという心配はあるが、ベテランの“青ノ翼”の三名と、彼らといつも一緒にいた青姫だ。そのチームワークや潜ってきた修羅場の数は伊達じゃない。
むしろ、残った神楽達の方が心配されるというものだ。神楽はこの場を四人に任せ、強引に突破して先へと進んだ。
◆
――Aブロック・出口付近――
中間地点を抜けた先は、一気に周りの雰囲気が変わった。第一研究室が近いからだろうか。警備員や戦闘員の数が少ない。
すれ違う敵を<肉体活性>で強化した身体能力で即座に沈めていく。
神楽の瞬間移動もかくやというスピードに対応できる敵はほとんどいなかった。
また、一緒にいる稲姫やピノを見ると――
「――っ!?」
「敵はあっちでありんすよ!」
「――――♪」
敵が同士討ちを起こしている。稲姫の<幻惑魔法>と、ピノの<パニックボイス>だった。どちらも相手の精神に作用し混乱させる。
直接的な攻撃手段はあまり得意でなくとも、搦め手を駆使して敵を攪乱している。心配するだけ失礼なくらいだった。
神楽達は更に先へ進む。扉を抜け、そろそろ第一研究室も近いかという時。
――パチパチパチ
静かな部屋の中、神楽達は拍手に迎えられた。まわりに警備員や戦闘員はいない。――いや、一人いた。
仮面を被り、ローブを羽織った小柄な者が一人。神楽は一瞬、S―01――“シーラー”かと考えたが、違った。
――そう。仮面の者から発せられたのは、女の声だったのだ。
「まさか、あなた達がここまで来れるとは思わなかったわよ」
気さくに話しかけられても、敵には違いない。さっさと片付けるべく、神楽は<肉体活性>で身体全体に力を漲らせた。
「邪魔だ」
「やる気満々なのね。――まぁ、いっか。一応名乗っておくわね。私はS―03。じゃあ、殺し合いましょうか。侵入者さん♪」
そうして、神楽とS―03の戦いの火蓋が切って落とされた。




