【第三部】第八十五章 そして正念場に
――研究施設内・Bブロック――
「これで全部か」
「手応えないにゃ」
神楽達が第三研究室を出て第一研究室を目指しているところ。Bブロックを抜け、更にはその先のAブロックを抜ける必要があった。
<侵食>により支配下に置いている中年男性――第三研究室で確保した白衣の研究員――を操り先行させ、警備員の油断しているところを、<肉体活性>した琥珀と神楽で急襲する。
このパターンで今のところ上手くやれている。沈黙させた警備員は、神楽が<侵食>で支配下に置き、新たな手駒とした。
感覚としては、若干死霊術士に近いかもしれない。いや、アンデッドなんて操ったことなんて無いけど。想像上の話ではだ。
「ただの人間ではありませんね」
「ふむ。わらわ達と同じ妖獣の気配もかすかにある。――“あの時”と同じじゃ」
「“和国”の時の話にゃね?」
青姫と琥珀は、和国でこいつらマスカレイドが攻めてきた時、森林で共に戦ったんだったか。
特に強かった仮面付き達のことを言っているんだろう。
「<侵食>で読み取る情報も“普通じゃない”。あの研究室で見た設備からすると、ろくでもないことをしてそうだな」
神楽達は先程、第三研究室内に並んでいた培養槽を見ている。そこには、命を弄んでいるとしか思えない光景が広がっていた。
身体の一部のみを妖獣に変えた人間。その逆もいた。中には、奇形の胎児もいた。半妖として造りだそうとしていたのかもしれない。
そんな非人道的な光景を思い出し、神楽は顔をしかめ拳をきつく握りしめる。
「おいおい。悠長に話してる余裕は無いだろ。さっさと行こうぜ」
「……迅速行動」
ラルフやレインの言う通りだ。時間が勝負の奇襲。相手に時間を与えずさっさとやり遂げないと。
神楽は<侵食>で増やした新たな手駒を先行させ、同様のやり方でBブロックを突破していった。
◆
――Aブロック――
「流石にここからは警備が厳重だな」
「最重要施設の手前ですからね」
「うむ。だが、それだけお目当てが近い証拠じゃろうよ」
Aブロックに入ると、徘徊している警備員の数がBブロックとは桁違いに多かった。
隙をついても一度に全部を無力化するのは無理そうだ。
仕方無い……。
「ここからは力業だ。動き方は話し合った通りに」
皆がうなずくのを確認すると、神楽は意を決して行動を開始する。
「じゃあ! いっちょやりますか!!」
傀儡にした囮を先行させ、神楽達は警備員達を急襲した。そして、研究施設内全体にけたたましいサイレンが響き渡る。
この戦乱の正念場の幕が切って落とされた。




