【第三部】第八十三章 サイレン
――“マスカレイド”研究施設・第一研究室内――
研究施設内にけたたましいサイレンが響き渡る。
「何事ですか!?」
博士のヒステリックな叫びが室内に響き渡る。だが、それに答えられる者は誰もいなかった。
「わからないなら調べてきなさい!!」
「――は、はっ!!」
白衣の研究員達は作業を中断し、状況確認のため急ぎ部屋を出ていこうとする。――が、ちょうどそのタイミングで扉が外から開かれ、伝令が室内に駆け込んできた。
◆
「も、申し上げます! 施設内に賊の侵入を確認! 現在Aブロックにて、警備に当たっているナンバーズと交戦中! ですが、賊の中には強力な妖獣もおり、長くはもちません!!」
「賊は妖獣達なのですか!?」
「は、はい! ですが、人間も含む混成部隊です!!」
「人間も……? とにかく! さっさと叩き潰しなさい! 施設に残っているSナンバーズは!?」
「S―03、S―04、S―06が待機しております!」
「なら、すぐに――、いえ、S―06はこちらに寄越して、S―03とS―04を迎撃に当たらせなさい!!」
「はっ!!」
伝令が急ぎ研究室を出ていく。博士は苛立ちから手近な椅子を蹴り倒した。
Aブロックは、ここからそう離れてはいない。これ程近くに潜り込まれるまで賊に気付けないとは、警備の者達は一体何をしていたのか!!
「よりによって、こんな時に……! ――っ!!」
そして、伝令に伝え忘れていたことを思い出す。近くの研究員達に向け、博士が叫ぶ。
「一人! S―01にすぐ戻ってくるよう、念話が使える者をつかまえて連絡してきなさい! 残りの者は、重要機密の持ち出し準備を! 最悪、ここを放棄しますよ!!」
「は、はっ!」
研究員が一人、研究室から急ぎ出ていく。残りの者は、博士からの指示通り、撤退準備に入った。
「あの子が戦力を持ち出さなければ……! それに、東への増援も!! すべて裏目に出てます!! 忌々しいっ!!」
机を蹴るが、足が痛みそれが余計に博士の苛立ちを煽る。
「大型飛行妖獣の準備を!! 裏口に準備しなさい!! “青龍の封印石”を持ち出します! ――それと、“この子”も!!」
博士が、とある培養槽を指差し研究員達に告げる。
「しょ、承知しました!!」
「“目覚める”ことはないと思いますが、念のため、すぐ眠らせられるように準備しておきなさい!」
培養槽から出すなんて滅多にしないことだ。何が起こるかわからない。備えはきちんとしておいた方よいだろう。博士の指示を受け、研究員がすぐさま備品の用意に移った。
「持ち出せない重要機密は――ええい、忌々しい!! 廃棄しておきなさい!! さあ、急いで! 時間はありませんよ!!」
サイレンと博士の怒号が響き渡る中、研究員達は急ぎ撤退の準備を進めるのだった。




