【第三部】第八十一章 白い建物
【時は神楽達がトンネルを抜けた時点に遡る】
東の山の麓にある洞窟内から地下に降り、長いトンネルを抜けた先、神楽達は出口の扉を発見した。
行動指針を皆で簡単に共有した後、神楽が先頭に立ち、ゆっくりと扉を開いた。
そこには――
広大な地下空間に、白い大きな建物が視界いっぱいに広がっていた。照明が所々にあり、地下でありながら、あまり暗さを感じさせない。
◆
――ズキンッ!
(――っ!!)
頭が痛む。
(俺はここを知っている? いや、ここじゃない。だけど、似た場所だ……。ダメだ。今はこんなことで立ち止まってる場合じゃない!)
「主様……」
「悪い。大丈夫だ。――行こう」
心配そうに神楽の服の袖をつかむ稲姫に笑いかけた後、神楽は気を引き閉め直して先に進む。
建物は皆、白い壁で出来ている。そして、かなり高い。二階、もしくは三階建てかもしれなかった。
そのおかげで、隠れながら進むのは楽だった。神楽を先頭に、皆が建物の裏に回り静かに進む。
幸い、今のところ誰にも見つからずに進めている。目的はあくまで“青龍の封印石”の奪還なので、できる限り隠密行動を心がけたいところだ。
やがて――
(あった)
建物裏手の扉だ。神楽は振り返り、皆がうなずくのを確認すると、ドアノブに手をかけた。ちょうどその時――
◆
――ピィーッ!
辺りに笛が鳴り響き、思わず悲鳴を上げかけそうになる。
(バレた!?)
神楽達は全周囲に気を配るが、誰かが近づいてくる気配はない。耳を澄ませると、騒ぎは今神楽達のいる建物裏手の反対側――つまりは正面で起きているようだった。
目視できるよう、来た道を少し戻る。
そこには、たくさんの人間の兵士がいた。百では済まない。二百はいるだろうか。その大軍が整列していた。
そして、先頭の一人は仮面をつけローブを羽織っている。
思わず叫びかけた稲姫の口を、神楽は慌てて自分の手で覆った。
◆
「これより、兵を損耗したS―07の支援派遣として、このトンネルを通り合流する。その後はS―07の指揮下に入る。総員、隊列を乱すな」
それだけ言うと、仮面の男を先頭に、およそ二百の兵が扉を抜けていった。
神楽達が入ってきた扉だ。一歩遅ければ鉢合わせするところだった。神楽は自らの幸運に感謝した。目的である青龍奪還のためには、少しでも兵がここからいなくなってくれた方がいい。
一気に二百もいなくなってくれたのは、予想外の幸運だ。ただ――
(そうだ。朱雀とその眷属に伝えておこう)
『二百の軍隊が洞窟から出てくる』『敵のアジトを突き止めた。地下で、場所は――』と<念話>で伝えておいた。
「さて、これはチャンスだ。今のうちに行くぞ」
皆がうなずくのを確認すると、神楽はすぐさま裏手の扉から建物内に侵入するのだった。




