【第三部】第八十章 真価
――北東の荒野――
シーラーは前を隼斗、後ろを刹那に挟まれ、追い込まれていた。Aナンバーの中に紛れ込んでいた刹那に他のAナンバーを全員無力化され、今やシーラーだけとなっている。
「どうやって、ここがわかったのかな?」
異常に気付いた研究施設からの援軍が到着するまで、少しでも時間を稼ごうと、話を隼斗に振ってみるシーラーだが――
「あ~……。期待してるところ悪いけど、助けは来ないよ? 君達の研究施設は、今はもう軍の制圧下。青龍は取り戻してるし、君達のトップは、飛行妖獣に乗って逃げちゃったんだ」
「嘘だっ!!」
隼斗がペラペラと伝える実情は全て本当のことだった。シーラーの悲痛な叫びだけが虚しく荒野に響いた。
「君には感謝しないと。研究施設の戦力を大量に持ち出してくれたから簡単に事が運んだよ。――ありがとう」
「貴様ぁっ!!」
煽る隼斗にシーラーが感情のまま突撃する。だが――
「――ごふっ!」
「君の能力は僕らには通じないみたいだね? 妖獣相手には好き勝手できるのに、――さっ!!」
「がはっ!!」
通り名の<閃光>に恥じない速さで隼斗はシーラーの急所をついていく。そこには確かな怒りが込められていた。
――たくさんの人や妖獣が死んだ。こいつらのせいで。
青龍を奪い、その眷属を挑発し、戦乱を引き起こした。東都では今も、皆が人間と妖獣の大量の死体を片付けている。クレハやガイルも負傷した。
こんな自分勝手な奴らのせいで。
――楽には済まさない。
先程情報を漏らしたのも、シーラーを絶望させるためだった。こんなものでは済まさない。隼斗はシーラーに歩み寄っていく。だが――
◆
「隼斗っ!!」
「――っ!!」
滅多に出さない刹那の大声で隼斗は緊急回避する。先程までいた場所で地面が弾けた。
「残念。仕留めるつもりだったのに」
見ると、シーラーの身体から異様なオーラが立ち上っている。どす黒いオーラだ。そして右手には、どこから取り出したのか棍棒を持っている。
今地面を破砕したのは、棍棒による一撃だった。恐ろしい程の身体能力で隼斗に急接近し、棍棒を叩きつけたのだ。
あと一瞬遅れていたら、隼斗はミンチになっていたに違いない。隼斗の心臓が早鐘を打つ。
隼斗と刹那は慎重にシーラーから距離を取った。そして、隼斗は集中する。
◆
――<鳴神>
隼斗の考案したオリジナルスキルだ。雷属性の魔法と各種武技の複合技。青嵐を一撃で下した技でもある。
その凄まじい威力と引き換えに、使用後の反動でしばらくはまともに動くこともままならなくなる。本来、一日に二度も使える技ではないのだ。
だが、確実にシーラーをここで仕留めるため、隼斗は賭けに出た。急速に身体に雷を纏っていく。
対するシーラーは、隼斗のその様子を見て歯噛みし――
“身の内から”大量の妖獣を召喚した。
「――なっ!?」
「隼斗! 数が多すぎる!!」
「あははははっ!! じゃあね~」
刹那と隼斗が召喚された妖獣達に足止めされている内にシーラーはその凄まじい脚力で空高く跳躍し、またも内から出した飛竜に乗って飛び去って行ってしまった。
隼斗と刹那が妖獣を片付け終える頃には、シーラーの影も形も残されていなかった。
「参ったな……これじゃ、彼に顔向け出来ない」
寂れた荒野。隼斗がそうポツリと溢すのを、刹那は目を閉じ静かに聞いていた。




