【第三部】第七十九章 計略
――“中つ国”北部上空――
「どういうことだ! クソッ!!」
西で白虎や玄武達により返り討ちに遭い、S―01――”シーラー”をはじめとした極少数のメンバーは飛行可能な妖獣に乗り、上空を飛びながら帰路についていた。辺りはもうだいぶ暗くなっている。
シーラーに連れられている極少数のメンバーは、いずれもAナンバーだ。シーラーは特に戦力的価値の高いメンバーのみを助け出し、他は囮に使った。
作戦中は人間側の軍隊に偽装する必要があったため、シーラー以外は仮面を外していたが、作戦が失敗した今その必要は無いため、Aナンバーも皆仮面を着用していた。
シーラーは作戦が失敗したことに憤りを感じているが、今は雪辱を晴らせる状況ではない。これ以上戦力を失わないために、北東の研究施設を真っ直ぐ目指していた。
(覚えてろ!! この僕をコケにする奴は誰だろうと許さない。――そうだ。いい手があるじゃないか! 青龍をぶつけてやろう。仲間同士殺し合えばいいさ!!)
シーラーは暗い笑みを浮かべながら、次の目的のためにも急ぎ研究施設を目指すのだった。
◆
――北東の荒野――
研究施設のある位置の上空に来ると、シーラーはゆっくりと下降し地表の荒野に降り立った。Aナンバーも後に続く。
「もたもたするな! 行くぞ!!」
シーラーは背後のAナンバー達を急かすと、研究施設のある地下への入り口に向かう。そうしてしばらく進み、角を曲がったところ――
◆
「やぁ。初めまして、かな?」
見たことの無い――いいや、噂では聞いたことのある風貌の優男が、入り口付近の岩壁に背をもたせかけていた。
「――“宵の明星”がどうしてここにいる!?」
最高峰のブラッククラスギルド“宵の明星”。その中でも特に危険な、ギルドマスター<閃光>隼斗。
要チェックリストのトップだった。体系化した技術を行使する相手には、シーラー十八番の“封印”は意味を成さない。
その中でもトップクラスの実力者ともなると、シーラーにとって最大限に警戒しなければいけない相手だったのだ。
「お前達! 一斉に――」
シーラーは背後のAナンバー達に声をかけようとして、ようやく違和感に気付いた。――静かすぎる。
「ご苦労様。――刹那」
「問題ない」
シーラーが振り返ると、そこには――
Aナンバーと同じ仮面とローブを纏った小柄な者が一人、血に濡れた短剣――“和国に伝わるクナイ”を握りしめていた。周りには、ピクリとも動かないAナンバー達が転がっている。
――<朧>刹那。
“宵の明星”の暗部を司る闇夜のハンターだった。またも要チェックリストのトップクラスだ。それがAナンバーに、いつからか紛れ込んでいたのだろう。シーラーは歯噛みする。
シーラーはいつの間にか、またしても窮地に追い込まれていた。




