【第三部】第七十八章 撃退
――西の山・麓――
S―01――“シーラー”達は窮地に追い込まれていた。西の山中からは投石が、北東寄りの平原からは玄武やその眷属達による高圧水流が間断無く叩き込まれている。
何故こんなことになったのか。奇襲をするつもりが逆に奇襲を受け、今や絶対絶命の危機だ。シーラーは臍を噛む。
接近さえしてしまえば自分の能力でどうとでも乗り切る自信があるが、敵は徹底して遠隔攻撃に徹している。明らかに分が悪かった。
(もう手段を選んではいられない!)
シーラーは苦肉の策に出た。
◆
――西の山中――
「びゃ、白虎様!」
「分かっている! だが、攻撃の手を緩めるな! 既に奴らに“操られている”!!」
そう。シーラー達は、隠し持っていた封印石から大量の妖獣を解き放ったのだった。
◆
――北寄りの平原――
「玄武様……」
「白虎や朱雀から聞いておった通りじゃ。あ奴ら。儂らの同胞を使役しておる。だが、攻撃は絶やすな。憐れな同胞を解放してやるのじゃ」
玄武側も攻撃の手を緩めない。奴らは妖獣を盾に展開しているが、妖獣ごと水流で吹き飛ばした。
◆
――西の山・麓――
「――っ!!」
白虎や玄武達は、シーラー達が妖獣を多数展開しても、一切の容赦無く攻撃を浴びせかけてきた。少しでも手が緩めばその内に撤退をと考えていたシーラーの思惑が外れる。
(なんなんだ!? 動揺すら見られない! ――知っていた? いや、馬鹿な……でも、そうだとしか!!)
シーラーは苛立たしげに舌打ちする。そして――
「Aナンバーは飛行可能な妖獣に乗り、僕に続け! 他はこのまま敵を釘付けにしていろ!!」
一部の力ある者だけを連れて撤退しようとする。残りは捨て駒の肉盾にして。
指示を受けた各員が動き出す。
シーラーは飛竜にまたがり上空に飛び立った。他のAナンバーもそれぞれ妖獣にまたがり続いた。だが、一人だけ遅れている。
「さっさとしろ! 置いて行くぞ!!」
シーラーは遅れている者に怒鳴り、そのまま更に高度を上げていく。投石と高圧水流から逃れるために。
遅れていた一人も後から続いた。襲い来る水流をなんとか躱しながら、急ぎシーラー達の後を追うのだった。
シーラー達のいなくなった後、残りの者達は置き去りにされ、役目が終わったとばかりに抵抗をやめ遠隔攻撃にさらされるままになる。
一部妖獣は暴走しているのか果敢にも突撃を敢行するが、すぐに高圧水流で無力化された。
残存戦力の抵抗がやむのを見届けた白虎や玄武が攻撃をやめさせる。
主犯と思われる隊長格を取り逃してしまい、白虎や玄武は嘆息する。静かになった戦場の中心には、数百に上る人間と妖獣の骸が静かに横たわるのだった。




