【第三部】第七十六章 逆襲
【朱雀がS―07達と戦っている頃】
――西の山への道中――
S―01――“シーラー”は軍勢を引き連れ、西の山の麓まで来ていた。理由はもちろん、西の山に住まう“白虎”を襲撃するためである。
北の玄武への襲撃は既に済ませてある。そのまま研究施設には戻らずに、こうして西に足を運んだ訳だ。
東都に潜り込ませている諜報員からは、青龍の眷属達が攻め込み人間と交戦を開始したと<念話>で報告を受けている。
どうやら熾烈な戦いとなっているようで、特に人間側が多数の死傷者を出しているとのこと。自分の思惑通りに事が運び、シーラーはほくそ笑む。
玄武が北都に攻め込んだという報告はまだ受けていないが、時間の問題だろう。鈍重な玄武の眷属達の移動速度では、北都到達までに多くの時間を要するだろうから、開戦が遅くなるのは仕方無い。
もう一方の部隊、S―07の指揮する部隊からは、追加派兵された部隊と合流し南に向かっているとの報告を受けている。それ程時間を要さず南に攻め込めるだろう。
――全ては自分の手の上で期待通りに踊っている。
シーラーは上機嫌に、最後の仕上げをと白虎の住まう西の山へ向かっていた。もう間もなく到着する。
◆
――西の山・麓――
「ここだね。じゃあ、早速火でも――」
シーラーは目的地である西の山まで来ると、山に火を付けるよう部下に指示を出そうとした。だが――
――ドズン……ッ!
岩が降ってきて、近くにいた部下が一人潰された。突発的な事態で誰も反応できなかった。シーラーの頬が、つぶれた部下の撒き散らす血で汚れた。
「散開! 囲まれてる!! 各個に応戦!!」
シーラーがそう叫ぶ間にも、山からの投石が止まずに降り注いだ。山は木々で覆われ、敵――白虎の眷属達の姿は見えない。だが、投石の発射元は明らかにその木々の間からだった。
だが、そこからはだいぶ距離がある。なのに、これ程正確に岩を投げ込んでくるとは、どれ程の膂力とコントロールをしているのか。
数も雨のように降ってくる。神獣クラスが多数待ち構えていたとしか思えなかった。
(白虎やその眷属達は近接戦を得意としてたはず。だからこそ、僕が出向いて来たっていうのに。この距離じゃ、<封印領域>も届かない!)
シーラーは焦りながらも、部隊を指揮しながら思考に没頭する。
(それに、待ち構えていたとしか思えない準備の良さ。本来、妖獣は人間の都を攻める側だ。それなのに、迎撃準備をこれだけ整えていた。何故……。! まさか、内通者がいたっていうのか!?)
シーラーはあらぬ疑いを持つようになる。そうしている間にも、事態は更に悪化していく。散開して遠距離攻撃で応戦している部下の数がだんだんと減ってきていた。
(ここは一旦引くしかない!)
「総員撤退! 急ぎ、元来た道から北に撤――」
それは、撤退指示を出している途中の出来事だった。
今、シーラーの横スレスレを、背後から高圧水流が通過していった。近くにいた部下が直撃して吹っ飛んだ。
慌ててシーラーが振り返ると――
北東から玄武とその眷属達がシーラー達に迫っていた。幾筋もの水流が部隊に襲いかかる。
シーラー達は挟撃され、瞬く間に窮地に立たされるのだった。




