【第三部】第七十二章 封印石
朱雀はS―07達の動向を察していた。
それもそのはず、神楽やピノ達が入っていった洞窟を、朱雀の眷属達が遠巻きに見張っていたのだから。
朱雀の眷属達は、洞窟の近くに隠れている者達がいることにも最初から気づいていた。その時点で一体が、文字通り飛んで朱雀に報告に行ったのだ。
その後、洞窟の入り口で奴らが合流するのも眷属達は見ていた。――それに、眷属達は朱雀と共に、神楽から“そうなることを事前に<念話>で聞いていた”のだ。
だが、襲いかかりはしない。あの青龍を捕らえた一味なのだ。自分達だけでどうにかなるとは思えなかった。それに、数も数百規模なのだから。
奴らが合流し南へ向け進軍するのを確認すると、眷属のもう一体が朱雀に報告に向かった。こちらに向かって飛んで来ていた朱雀に報告すると、朱雀から命令が下された。
そして、この“殲滅戦”が仕組まれたのだ。
◆
同じ洞窟に入った神楽やピノ達が気掛かりではある。だが、今優先すべきは、自分の領地を荒らしに向かって来ている、このふざけた輩共を塵にする方が先だ。
朱雀は、奴らの進路の中間地点に網を張った。そして、見事に奴らは引っ掛かったのだった。
(先頭を歩く仮面をつけた二体は別格じゃな。やはり、こ奴らからは人以外の気配も感じる。“半妖”か……それとも、別の何かか)
人以外の気配も感じるが、妖獣のものだけとも断定できなかった。得体の知れない何かが不気味さを醸し出していた。
(まずは奴らの退路を塞ぐかのぅ)
そうして、力をためた朱雀から紅蓮の焔が迸るのだった。
◆
「どうする?」
「撤退します。我々の動きは読まれていました。尾行されていたのでしょう」
いつからつけられていたかもわからないが、今こうして焔の壁で周囲を囲まれているのがいい証拠だろう。
敵を侮っていた。二度も奇襲を成功させてはくれないようだ。
「しかし、退路は塞がれた。“俺の力”でもこの焔は厳しいぞ」
「私もです。――ですが、実はS―01から預けられているものがありまして」
S―07は懐から赤く輝く大きな石を取り出した。
「“封印石”か」
「ええ。S―01が言うには、“和国の強力な龍”が入っているそうです」
北西の荒野でS―01と別れる際に預けられたものだ。
『僕のお気に入りなんだけどね。君に預けるよ。人間が襲ったという実績作りのための奇襲だから使うべきじゃないんだけど、もし朱雀と交戦することになったらこれを使って。――あ、朱雀を捕獲するためにだよ? って言っても、君には難しいか』
そう言ってS―01は笑っていた。馬鹿にされたが、実際その通りだし、そもそも悔しがるという感情も持ち合わせていなかったので気にならなかった。
ちなみに、S―01はこの封印石に入ってる妖獣を使って青龍を捕らえたと言う。しかも聖域で。あながち大言壮語という訳でもないのが質が悪い。
「では使います。下がっていてください」
比較的開けた場所で封印石を使う。S―07が短く言葉を紡いだ。すると――
封印石が赤く輝き、中から巨大な龍が現れた。




