【第三部】第七十一章 奇襲
――南東の森林――
青龍の住み処である東の山と朱雀の住み処である南の高山までは、自然豊かな地形が続いている。
一度人界寄りの内側に出れば、だだっ広い平原に出るのだが、S―07達の目的は朱雀の住み処への奇襲にあったので、身を隠しながら進める自然豊かな地形を選んでいた。
南東の森林部。青龍の住み処と朱雀の住み処のちょうど中間地点にまでS―07達は到達していた。
◆
「おかしい」
「何がですか?」
隣を歩くS―05が何かを訝しみながらそう呟いた。
ここまで特に異常は無く進軍できていた。時折襲いくるモンスターを手早く片付けながら進軍している。たまに手強いモンスターもいるが、Sランクの猛者が二人もいれば、敵ではなかった。
他に驚異は無い。強いて言うなら、人の手が入っていない自然ということもあり、進みにくい地形に遭遇するくらいだ。ただ、それも邪魔な障害を排除したり、強化された高い身体能力で問題なく突破できていた。
だからこそ、S―07にはS―05が何を訝しんでいるのかがわからなかった。
◆
「妖獣に全く会わない」
「それは、生息圏から外れているからでは?」
確かにS―05の言う通り、南に進軍しだしてから妖獣には出くわしていない。青龍の住み処である東部の山では時折遭遇し、速やかに“処理”していた。
妖獣はモンスターよりも手強いことが多い。モンスターよりも頭が回り、時には予想外の手段も取ってくる。
特に神獣クラスになると、桁違いに厄介になる。力、知性共に並の妖獣よりも格段に上だ。運のいいことに、まだ出くわしてはいない。
青龍の眷属は東、朱雀の眷属は南と住み分けしているためだと考えていたのだが……。
S―07は改めて周囲を確認した。緑豊かな森の中、モンスターの姿は無い。後ろには、複数グループに別れて配下が続いている。いずれのグループからも異常感知の報告は無い。
何か見落としがないか、更に詳しく周囲を探ろうとした、ちょうどその時――
◆
突如、森林が紅蓮の焔に包まれた。
その範囲は広大で、S―07の確認する限り、全方位隙間無く紅蓮の壁が囲っていた。
配下達の方を確認すると、外側に配置していたグループが丸ごと消失している。どうやらこの焔に取り込まれ、文字通り灰にされてしまったようだ。ざっと確認したところ、総数の四割程度を、このたった一撃で失ってしまった。
「どうやら、逆に奇襲されてしまったようだな」
「まさか……朱雀?」
S―05の視線を追い上空を見ると、巨大な紅蓮の妖鳥が翼を広げ、その威容を誇っていた。




