【第三部】第六十九章 造られた命
S―01――“シーラー”の指示で青龍の眷属達の住み処を攻めていた人間部隊の隊長はS―07と呼ばれていた。
S―01と同じく仮面を被っている。性別を隠すためか、ゆったりとしたローブを羽織り、目深にフードを被っていた。一般人から見てあやしいことこの上ないが、そもそも一般人と接触する機会自体、想定していない。
外に駆り出される際は、たいてい今のように荒事の任務だ。
S―07は”見た目上、まだ十代半ばの少女”だった。生まれ――いや、“造られた”場所は北東の地下にある研究施設の培養槽の中である。
名前は無い。S―07という記号だけが彼女に与えられた。いや、その前は別の記号だった。初めはアルファベットが最低ランクのDだった。そこから実力を示しS―07まで上りつめたのだ。
過酷な生育環境で戦闘員として訓練された彼女に、自己実現の欲求は無い。ただ与えられた命令を忠実にこなすよう、その機能だけを求められ、本人もそれだけを考えていた。
少女にはこの世界が色褪せて見えていた。
◆
【時はS―01との念話後に遡る】
――東の洞窟付近――
東の洞窟付近で少女は援軍の到着を待つ。先の青龍の眷属達との戦いで、多数の兵を失ってしまった。S―01に報告したところ、博士に取り次いで援軍を寄越すとのことだった。
その後、その言葉通り、援軍が送られてくることになった。研究施設内の連絡員から<念話>で連絡が来たのだ。援軍はこの洞窟内に通じている地下通路を経由してここに出てくる予定だ。
S―07と呼ばれる少女は、なるべく目立たぬよう、連れている部隊を分散させて身を隠し、援軍の到着を待った。
どれくらいそのまま待っただろうか。普通の人間なら退屈してくつろいだりする程度には時が経っているが、少女やその部下達の誰にもその気配は無かった。
少女の部下達も造られた命だった。少女と同じく、アルファベットと数字からなる記号を与えられている。
少女と違うのは、その記号により区分されるランクだけだった。いや、ランクが違うからこそ明確な序列が生まれ、命の価値の優劣を定められていた。
先の戦いで死んだのは、命の価値を低く見積もられていた者達ばかりだ。具体的には、DやC、Bランクの者達になる。ランクが低い者程最前線に立たされ、敵の攻撃を苛烈に受けることになる。
だが、彼らの中に不満を訴える者はいなかった。そのことに疑問もはさまない。“疑念”を抱けるほどの精神的自由など、彼らには与えられていないのだから。
彼らにとって世界とは、“色褪せた物質の集合体”に過ぎなかった。




