【第三部】第六十七章 その時、作戦会議室内にて
【時を遡ることしばし】
――央都・城内・作戦会議室――
「窮地に陥っている東都の支援ですが、北都と南都から援軍を向かわせます」
「それでは北と南の守りが薄くなるぞ!?」
「ええ。なので、これは賭けです。今のところ、北や南からの妖獣達の進軍はありません。東都を青龍の眷属に攻めさせ、守りの薄くなった方から攻め込む算段である可能性も捨てきれませんが、このまま手をこまねいていても東都が突破されるだけです。――であれば、守護長城で繋がっている北と南から精鋭を選出し応援に向かわせるのが今取れる最良の選択かと」
兵部尚書の案に納得していない者もいたが、他にろくな案が出なかったこともあり、実行されることとなった。各所に命令を伝えるため、伝令が走って部屋を出ていく。
「精鋭となると、“宵の明星”もですかな?」
「ええ。我ら軍属からしたら情けない話ではありますが、エクスプローラーの最上位であるブラッククラスの彼らが適任でしょう。――君。彼らにも協力を要請してくれ」
「かしこまりました!」
部屋に控えていた伝令役も指示を受けると慌てて退室していった。部屋が一応の落ち着きを取り戻す。
「しかし、攻めて来たのは東だけか」
「だが、北には小規模だが妖獣達が攻めて来たのであろう?」
「であれば、次は北に来るということか?」
「いや、裏をかいて、まだ全く攻められていない西や南ということも――」
作戦会議室内の誰にも妖獣達の次の動きは読めなかった。まさか“マスカレイド”の“シーラー”が各所をまわって人間や妖獣の対立を煽っているなど、想像だにしていないのだ。
兵部尚書は一人考え込む。
(これだけの戦力を有する青龍の眷属に単独で攻めさせる意味はなんだ? 陽動? しかし、他の方角には全く動きは見られない。まさか、青龍の眷属達の暴走という訳でもあるまいに)
実際はそれこそが真実なのだが、兵部尚書として常に相手の思考の裏まで読んできた策略家だからこそ、青龍の眷属達がそのような短慮で多数の犠牲を出す単独暴走をしているとは思えなかった。
(陽動だとして、相手が次に攻め込む方角は――)
兵部尚書がまた深く思考に没頭し始めたちょうどその時――
◆
――ズズズ……
唐突に地面が揺れる。島国でもない“中つ国大陸”で地面が揺れることなど、そうそう経験しない。作戦会議室内はどよめきで満たされた。皆、手近なテーブルや椅子につかまっている。
「妖獣達の奇襲では!?」
「そ、そんな! では、守護長城が突破されたと申すか!?」
「落ち着きなさい!! 憶測を吹聴しないように!! まずは状況を確認――」
「――あ、あちらを見てください!!」
窓際にいる警備兵が窓の外を指差す。驚きで目を見開いている。指差す手は緊張のためか、ぷるぷると震えていた。
兵部尚書達が急ぎ集まりその方角を見た。そこには――
「何だアレは……」
「黄色の龍……?」
央都南の地から天に昇る巨大な黄色の龍の姿があった。




