【第三部】第六十三章 東都戦②
――東都広場・外縁部――
「嵐がやんだぞ! 盛り返せ!!」
隼斗が青嵐を撃退し、吹き荒れていた嵐は消えた。そして、上空一帯に立ち込めていた嵐雲も消え、暖かい陽が射し込むようになってきた。
兵達は歓喜の雄叫びを上げ、一気呵成に反撃に出た。数はだいぶ減らされてしまったが、まだ妖獣達を上回っている。
生物としてのスペックには残念ながら妖獣と大きな開きがあるので、お得意の集団戦で各個撃破をしていった。
だが、そのまま黙ってやられる程、青龍の眷属は甘くはなかった。
◆
「――はべぢ!」
「ひぃっ!!」
「なんだ? 卵みたいに簡単に砕けたぞ」
龍の近縁種である“蜥蜴男”の神獣“剛乱”が、兵の頭を片手で掴み上げ握りつぶした。まわりの兵は腰が抜け地面にへたり込み立てずにいる。
ぶらんと手足を垂れ下げる兵士の骸をつまらなそうに放り投げると、剛乱は次の獲物を探し始めた。腰が抜けて地面に座り込み、お漏らししている兵には目もくれない。
「強者だ! 強者と闘わせろ!! ――お前達、雑魚は掃除しておけ!」
剛乱の後からズラズラと妖獣達がわいて出る。そして、恐慌状態に陥った兵達を即座に殺していくのだった。
◆
「た、隊長!! 無理です!! あんなの勝てっこありません!!」
「泣き言を言うな! 敵前逃亡は死刑だぞ!!」
広場の外縁部はパニックに陥った。我先にと兵が逃げてくる。剛乱の歩く先には誰も立たなくなった。
「ひぃっ!!」
「おぃ! 逃げるな!! ――ま、待ってくれ!!」
剛乱はこちらに真っ直ぐ歩いてくる。兵は恐怖で逃げた。もう隊長である自分以外は逃げ散っている。
隊長は剣を鞘から抜いた。手の震えでカタカタと音が鳴っている。
「わ、私は東都防衛軍、第三部隊たいちょ――――ぅぶっ!」
「なんだ? 身なりがいいから強いのかと思ったら、こいつもただの雑魚じゃないか」
腕を横に薙いだだけだった。それだけで隊長はゴム毬のように弾き飛ばされ、壁の染みとなる。
もう立ちはだかる者はいない。追撃を加えに配下達は広場を出て奥へと向かっていった。
「足りぬ……」
剛乱がワナワナと震え出す。
「全く足りぬ! 人間の中には青龍殿を降す猛者がいるのではないのか!? 俺と闘え!!」
剛乱の叫びが広場に響き渡る。誰からも返事が無いのに落胆し、また獲物を探し始めたところ――
地面に影が落ちた。ハッとして後ろに飛びすさる。その瞬間、轟音と共に地面がはじけた。
◆
「へぇ~、やるじゃねぇか! 蜥蜴野郎!!」
地面に埋まったバトルアックスを引き抜き肩に担ぐ大柄の男がいた。
――<重壊>
“宵の明星”が誇る重戦士ガイルの参戦だった。
剛乱は歓喜に震え、雄叫びを上げながらガイルに躍りかかるのだった。




