【第三部】第六十一章 閃光
――東都広場――
「た、隊長! “アレ”は何でしょう!?」
「むっ! 人間……? 誰だあれは!?」
「お、おーい! そんなところにいたら危ないぞ~!!」
広場を青嵐やその配下に占拠され、部隊は後方退避を余儀なくされていた。ただ、黙って見逃してくれる訳もない。すぐに妖獣達の追撃がかかった。
広場までの道には、おびただしい数の骸が転がっている。妖獣のものもあるが、大部分は人間だ。
これ以上はジリ貧だが、嵐という暴威の前に、軍人達は成す術を持たなかった。
そんな時、上空に浮いている青年が一人。軍服を着ておらず軍人ではない。では、エクスプローラーだろうか。
一般人と考えなかったのは、今は戦時中で国民に総動員令が出され皆が軍人となっていること、そして青年が<飛行>の魔法だろう、宙に浮いているからだ。
高等魔法を苦もなく使いこなしていることから、それなりに腕も立つのだろう。だが、それだけでこの嵐をどうにかできはしない。軍人達は青年に避難するよう呼び掛けた。
◆
呼び掛けに気づいたのだろう。青年は一瞬だけこちらを見た。そして、口元に人差し指を当ててみせる。
「静かに……? 何をする気だ?」
軍人達が見守る中、青年は更に高度を取った。グングンと上昇していく。やがて、豆粒以下になり姿も見えなくなった頃――
上空で瞬く閃光。稲光となり地表を襲う。――広場中央に鎮座する青嵐に向けて。そして鳴り響く雷鳴。
嵐はしばらくしておさまった。
◆
その様子は青嵐も見ていた。人間が一人、天空に昇って行く様を。だからと言って、この嵐の暴威の前に何ができるとも思わなかった。
それは油断だったのだろう。鼻で笑い目をそらした瞬間、何かが自分の身体を抉った。一瞬遅れて首から血が盛大に吹き出し、大地を赤に染める。そして聞こえる雷鳴音。
「青嵐様!」
配下の慌てた声が聞こえる。辺りを見ると、一部焼け焦げた地面が見える。その近くで地面に剣をつき身体を支えながら立つ満身創痍の男が一人。――“奴”か!
青嵐は怒りのまま咆哮し、男に襲いかかろうと鉤爪をふるうが――
「ここから先のあんたの相手はわたしだからぁ!!」
小さな少女が一人、身の丈程もある大鎌を両手でふるい、鉤爪を打ち払った。続けて連撃を加えてくる。
「――グアァッ!!」
「青嵐様! お下がりを!!」
大鎌を先程の傷口にくらい、派手に血飛沫が舞った。青嵐を庇うように前に出た配下達が少女と交戦を始める。
「済まない、お前達」
「青嵐様のおかげでここまで押し込めたんです! ここは我々に任せて今はお下がりを!」
「――あぁっ!! 鬱陶しい!!」
このままではただの足手纏いになる。青嵐は悔しげに顔を歪めると――
「人間共! ただではおかん! 必ずや根絶やしにしてくれる!!」
それだけ吐き捨て、青嵐は東に飛び去っていった。




