【第三部】第五十九章 喧喧囂囂
――央都城内・作戦会議室――
東都と北都が妖獣部隊の奇襲を受けた。その情報は、直ちに首都である央都にもたらされた。
央都内は大騒ぎだ。ついに妖獣達が攻めてきたのだと。そして、城内では軍の将官達が作戦会議を開いていた。その中には、情報を聞き訝しんでいる者もいた。
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「東都と北都、攻められたのはこの二ヶ所のみ。それも、どちらも寡兵。奇襲により一時は混乱したものの、体制を整え反撃すると敵は速やかに撤退。宣戦布告にしてもお粗末過ぎます」
「それは気にしすぎじゃないのか? 兵部尚書。妖獣など、所詮は獣。まわす頭など無いのであろうよ」
兵部尚書が疑念を呈すると、それを笑い飛ばす者が出た。そして、同調する者も現れ、室内に失笑が蔓延る。
だが、それに異を唱える者もいた。
「侮るな! 今回の奇襲での犠牲は、妖獣側に対し人間側の方が何倍も出ているとの報告だ! 奴らは我々よりも遥かに優れた肉体を持ち、それらが徒党を組んで襲ってくるのだ! 決して侮ってよい相手ではない!!」
「奇襲を受けたのだ。さもあろうよ」
「もう奇襲など通用せん。獣風情に人間様の力をとくと示してくれようぞ!」
士気が高まるのは結構だが、増長はよろしくない。兵部尚書は皆の気を引き締めるために口を開きかけた。ちょうどその時――
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「た、大変でございます!!」
扉をバン!と大きく開け、息を切らした伝令が室内に入ってきた。「何事だ騒々しい!」と叱咤の声も響くが、伝令は構わず兵分尚書の方に向き直り報告した。
「東都が青龍の眷属達に襲撃されております! その数、およそ3万! 東都の軍隊で迎撃中ですが、敵の苛烈な勢いに押されております!」
一瞬の静寂の後、会議室内は喧喧囂囂の大騒ぎとなった。先程迄の増長が嘘のように慌てふためく者達で室内が満たされた。
「わかりきっていたことです! 敵は強大だと! これでご理解頂けたでしょう? ――さぁ、ここからが本番ですよ!!」
兵部尚書がここぞとばかりに皆の気を引き締め直す。内心ため息をつきながらも、伝令から情報を子細に聞き出し、その対応策を急ぎ練るのだった。




