【第三部】第五十六章 鳴り響く咆哮
――東部山中――
東都が妖獣達の襲撃を受けていた頃、青龍の聖域がある山中は猛火と怒号に満ちていた。
そんな中、青龍の眷属である神獣“青嵐”のもとに、配下の神獣が報告に来ていた。
「青嵐様! 攻めてきた人間共は少数。軍服を着た者共が民を先導し、裏手から攻めてきました! ですが、こちらが反撃するとすぐに後退していきます!」
「退路を塞げ! 一人たりとも生かして返すな!!」
青嵐の怒号が飛ぶと、報告に来ていた神獣が急ぎ現場に戻って行った。
◆
――神獣“青嵐”。
青龍と同じ青い鱗の龍族であり、青龍がさらわれてからは実質的にここのトップだ。
青龍がさらわれた時に現場にいなかったことを今でも悔やんでいる。青龍を取り戻すため、他の四神獣と協調して軍備を整えていた。
だが、つい先日朱雀がここに来て、人間共への襲撃を一旦待つよう呼び掛けた。既に準備は整っていただけに、もちろん青嵐は反発した。だが――
「其方の気持ちは痛い程分かるつもりじゃ。じゃが、先にも言った通り、此度の青龍拉致は、ただの人間の仕業ではない可能性が出てきたのじゃ。青龍を取り戻すため、今、別の者達が動いておる。攻め込むのはその結果を待ってからでもよかろう?」
「その者達は人間だというではないか!! 信じられぬ!!」
「正しくは、“人間と妖獣の混成チーム”じゃ。今の世に珍しかろう? ――余は、あの者達に会って任せてみる気になった。白虎も同様じゃ」
朱雀は四神獣の中でも人間を排除する方に思想が傾倒していると思っていた青嵐は動揺した。自分と同類だと思っていたのに、なぜこうも簡単に人間を信じているのか。
白虎まで同調しているなら分が悪い。玄武はどちらかと言うとことなかれ主義だ。やる必要があるなら戦争も辞さないが、進んで事を起こすタイプでもない。
――自分がやるしかない。
主人を奪われた青龍の眷属である自分達だけでもやるのだ。だが、主人と同格の四神獣に諫められては、一旦でも矛をおさめるしかなかった。
◆
(その結果がこれだ! 人間共の増長を招いた! やはり、自分達だけでもやるべきだったのだ!!)
青嵐は決心すると、鎌首を天空に向け咆哮した。
その大音声は山中に鳴り響き、同胞達に開戦を伝える狼煙となるのだった。




