【第三部】第五十五章 迎撃
――東都東門――
隼斗とクレハが東門に着くと、既に先端は開かれていた。ところどころに兵の死体が転がり、地面や壁に血が飛び散っている。
「ば、化物――!」
「ひ、退くな! 都にはまだ避難できていない民がいるのだ! 絶対に通すな!!」
奇襲を受けた形なのだろう。戦線がズタズタだ。――しかし、隼斗は周囲を見回し、それだけじゃないなと頭を巡らせる。
「クレハ。気を付けるんだ。どこかおかしい」
「? 妖獣を倒せばいいんでしょ?」
大鎌を構え、今にも飛び出して行きそうなクレハの肩をつかむ。クレハは不思議そうに肩越しに振り返り、首をかしげていた。
「そうだけど。――よく見るんだ。妖獣はまだここまでは入り込んでいないのに、ここにも死体や血がある」
「逃げてくる時に殺されたんじゃないの?」
「それにしては数が不自然だ。――内部工作されている可能性もある」
隼斗がそこまで言うと、クレハもハッとしたように目を見開く。
「――わかった。背中にも気を付ける」
「うん。お互い、無理はせずに行こう。危険を感じたら、すぐにこっちに合流して」
「りょ~か~い!♪」
その言葉を最後にクレハが妖獣の群れに突撃していく。「ギシャアッ!?」「ゴアァッ!?」と、妖獣達の断末魔が聞こえてくる。人間側からは、どよめきと歓声だ。それを見届けた隼斗も行動を開始した。
◆
「ありがとうございました! おかげで妖獣共を撃退できました!」
「数もそんなにいなかったしね~。お疲れ様~」
兵士達がクレハに頭を下げている。あの後、クレハと隼人の介入で戦線を立て直し、逆に妖獣達を押し返したのだった。クレハは大鎌を振って、付いた血のりを振り払いながら兵士達をねぎらった。
辺りには数十の妖獣の骸が転がっている。だが、人間のソレはその数倍はあった。それだけ、普通の人間と妖獣には力の開きがあるのだ。ましてや、奇襲を受けたら言わずもがな。
クレハは、遠くで兵士と話している隼斗の元に向かった。
◆
「やはりそうでしたか。――で、その者達は?」
「いつの間にか忽然と姿を消していました。捜そうにも、私達も妖獣に襲われて、それどころではなかったので……」
何か深刻そうな話をしている。ちょうど話が終わったのか、隼斗と話していた兵士が去って行った。
「なになに? なにかわかった?」
「ああ。やっぱり、混乱を拡大させた“内通者達”がいたみたいだ。妖獣の襲来に呼応して、内部から斬りかかってきたんだってさ」
隼斗が難しそうな顔をしている。クレハにはよくわからず、思ったままの疑問を隼斗に投げ掛ける。
「“妖獣に通じている奴ら”がいたってこと? “人間”なのに?」
「そうなるね。しかも、混乱させるだけさせて逃げたと。捕まえられたら尋問できたんだけど……。まぁ、ろくな奴らじゃないね。上層部には、さっきの人が報告するってさ」
隼斗が肩をすくめてため息をつく。クレハも「そっか~」とだけ感想を漏らす。気にしてもこれ以上、答えは出なさそうだった。
「それと、襲いかかってきた妖獣達だけど――」
隼斗が辺りに幾つも転がる妖獣の死体を見ながら言う。クレハも同じく目で追った。
「ここは“青龍”の管轄下に近い“人界”だ。確かに龍族もいたけど、――混成し過ぎているとは思わないか?」
「うん。それは思った。色んな妖獣がいたよね」
「それと、“和国”の妖獣もいた。海を渡って来るはずなんてないのに」
死体の一つに近づき隼斗が見下ろす。クレハには隼斗程妖獣の区別はつかないが、確かにこの辺りでは見ない種類だった。
「ねぇ、ハヤト。これってさ――」
「ああ。“僕らが捜している”奴らと何か関係があるのかもしれない」
事後処理の進む東門で、隼斗とクレハは神妙な顔で互いにうなずき合っていた。




