【第三部】第五十四章 東都の混乱
――東都近辺・守護長城――
「ん?」
「どうした?」
東都近辺の守護長城の上で、物見が遠方に目を凝らす。
「いや、遠くに何か見えないか?」
「猪でも出たか?」
「いや、違うと思う。それに、数も――」
何かがこちらに向かってくる。まっすぐに。だが、まだ距離があってソレが何かがわからない。
しかし、だんだんと近づいてくるにつれ、ソレの“正体”がわかりだした。物見達は慌てて警鐘を鳴らす。
◆
――“宵の明星”東都拠点――
「ハヤト!」
「うん。わかってる。行こう」
都内に警鐘が響き渡っており、それはブラッククラスギルド“宵の明星”のホームにも届いていた。ロビーにいたクレハと隼斗は急ぎ外に出る。
普段は人通りの少ない閑静な住宅街だが、今は騒がしかった。皆、警鐘に驚き家から出てきたのだろう。
「ねぇ。この騒ぎ、一体何?」
隼斗とクレハを見つけた貴婦人が不安そうに問いかけてくる。この辺りは高級住宅街であるため、ここらに住む人達の身なりも他とは一線を画し立派だった。
「わかりません。これから確認に行くところです」
「おばちゃんは避難所に向かった方がいいんじゃない?」
「え!? 妖獣が攻めてきたっていうのかい!?」
「まだわかりませんが、その可能性はあります。最寄りの避難所は――」
隼斗は簡潔に避難先を貴婦人に教えると、すぐさま現場に向かう。
「あ、あんた達は行かなくていいのかい!?」
「ご心配なく。――僕らは“護る側”なので」
「そういうこと♪」
不安そうに見つめてくる貴婦人にそれだけ言うと、隼斗とクレハは、特に騒ぎの大きい都の広場に向けて駆け出すのだった。
◆
――広場――
「ど、どういうことだ!?」
「落ち着いてください! 大丈夫です! 慌てず避難を!!」
広場につくと、民衆がパニックになっていた。それを軍人が丁寧に避難誘導している。
「何があったんだい?」
「今はとにかく―― !! し、失礼しました! “妖獣”です! 妖獣達が襲ってきたのです!」
軍人は、尋ねてきたのが隼斗だとわかると直ちに態度を改め、状況を伝える。軍属にも“宵の明星”の高名は知れ渡っていた。
「ふ~ん。場所はこっち?」
クレハが東門のある方を指差すと、「そ、その通りです!」と軍人が敬礼を取る。どことなく顔が赤い。クレハに見惚れているようだ。『クレハは大人しければ可憐』だというのは、ギルド内でも共通認識だ。――“大人しければ”、だが。
戦時中に随分と余裕があるなと隼斗も苦笑いになる。
「ありがと。――行こ、ハヤト」
「ああ。――ありがとう」
「いえ! お気をつけて!」
教えてくれた軍人に礼を言うと、隼斗とクレハは東門に向け駆け出した。




