【第三部】第五十三章 トンネル
――“中つ国”東部・山の麓・地下トンネル内――
シーラー達が軍事行動を起こし始めるのと時を同じくして、神楽達は東の山の麓にある洞窟で地下への隠し階段を見つけて降りていた。
脇の壁には、常時点灯式なのか、照明が等間隔でかけられていた。そのため、階段を踏み外して転げ落ちる心配は無かった。神楽は先頭を歩き、やがて階段を降り切る。
階段を降りた先は、前方にトンネル状の広大な空間が広がっていた。ここにも等間隔に照明がかけられており、道に困ることはなさそうだ。
「おいおい……。いくらなんでも、こんなんありか」
これ程巨大な人工物を地下に作るなんて、どれだけの労力をかけたのか。朱雀の眷属に乗せてもらって“人界”の“守護長城”上を通った時にも思ったが、皆、とにかく規模がでかい工事をするものだと、ため息すら出る。
ちなみにだが、これは僥倖だったのかどうか、シーラー達はこのトンネルとは別のトンネルを通って地表に出ていた。北と東に分かれる必要があったため、こちらの東側のトンネルでなく、最寄りのトンネルを通っていたのだ。そのため、神楽達とは鉢合わせていない。
そんな事情を知る由も無い神楽達は、警戒しつつもトンネルを進み出した。
◆
「これ程の構造物……。僕らが追っているのは、予想以上に巨大な組織なのかもしれないね」
「だな。こりゃあ、この先も何があるかわかったもんじゃねぇぞ」
「……注意警戒。危険であれば、退くことも考慮すべき」
ベテランである“青ノ翼”の面々からの忠告だった。神楽としても同意見だ。だが――
「青龍が封印されていると思われる“封印石”の奪取はなんとしてでもやり遂げたいけど……。それと、蛟を取り返すっていうのもな。だけど、レインさんの忠告通り、場合によっては一度退こう」
「潜入して封印石を奪うのが主目的じゃの。う~む……、こういうのが得意な者も連れてきた方がよかったかのぅ」
「今更言ってても仕方ないにゃ。早く取り返さないと、戦争が起こっちゃうかもしれないにゃ」
琥珀の言うことももっともだな。朱雀と白虎は青龍の奪還を待ってくれるとは言ったが、他の妖獣達まで大人しくしていてくれるかはわからない。
特に、青龍を奪われた眷属達は、たいそう怒っているとのことだ。当然だろう。だから、少しでも早く青龍を取り戻さなくてはならない。
神楽達は、人や妖獣、その他生き物の気配の無いトンネルをひたすらに進んだ。
「これ、どこまであるんだ……?」
「先が見えないでありんす……」
稲姫も疲れたのか、少ししんどそうだ。トンネル内は、ひたすら代わり映えのない景色が続いている。
照明で周囲が照らされているとはいえ、目的地までの距離がわからない神楽達にとってはストレスだった。だが、愚痴っていても仕方ないので、そのままひたすらに進む。
そして――
◆
「おお!? 出口じゃないか?」
「うん、扉だ。――ということは、この先が“敵の本拠地”かもしれないね」
皆の顔に緊張が走る。
「いいか。先にも言った通り、“青龍の封印された封印石”の奪取が最優先目標だ。まずはどこにあるか調べる。なるべく敵に見つからないように。場合によっては、中の奴を捕らえて尋問する」
皆が神妙に頷くのを確認し、神楽は続ける。
「はぐれた場合は、<念話>で連絡を取る。この中で使えるのは――」
「……私」
「と、俺だな。なるべくレインさんか俺のどちらかと一緒に行動してくれ」
「わかりましたの!」
「承知しました」
神楽は自分の指輪を掲げて見せる。<念話>のアーティファクトだった。ピノと猛鋭は知らないはずだから伝えておいてよかっただろう。
「で、あまりにもヤバかったら逃げることも考える。――封印石を持って逃げられたら困るから、それは最悪の事態だが……」
「うむ。おそらく、戦争を止められなくなるじゃろうのぅ」
青姫の言う通りだろう。だから、ここでなんとしても片をつけたい。
「じゃあ、行くぞ」
皆に異論が無いことを確認すると、神楽は扉に手をかけた。




