【第三部】第五十一章 追跡者
【神楽達が地下に降りた少し後】
――洞窟内――
一人の男が洞窟内を歩いていた。神楽を見つけて尾行していたルーカスその人だった。神楽達が洞窟に入っていくのを見るとすぐに自分もと後をつけようとしたが、勘のいい妖獣達に気付かれそうになり、慌てて隠れ、時間を置いて洞窟内に入っていた。
(隠れる必要もそんなに無いんだけどな。それにしても、随分と大勢に囲まれるようになりやがって。――あいつも、自分の足で立てるようになったんだな)
それが嬉しくもあり寂しくもある。隼斗達との念話の後、ルーカスは神楽のことをもう少しだけ詳しく教えてもらっていた。
(“神楽”か……。やっぱ、隼斗と同じ“和国”の出だったか。髪色がおかしいからちょっと怪しんでいたが、記憶と一緒にイジられたんだろうな。まったく、“奴ら”は碌なことをしない)
ルーカスが神楽を拾ったのは偶然だった。――いや、それとも必然だったのだろうか。とある調査をしていたところ、行き倒れている神楽を発見した。衰弱しているようで意識も無かった。
怪しいと思いながらもルーカスは神楽を自分の隠れ家に連れ帰り介抱した。未婚であり子育ての経験など無かったが、これも何かの縁だと、できる限りのことをした。
介抱の甲斐もあり、やがて神楽は目を覚ました。だが、何も覚えていなかった。
何故あそこで行き倒れていたのか、自分が何者であるのかさえも。その時は面倒なもんを拾ったものだとため息をついたのを今でもよく覚えている。
その後は一緒に暮らした。最低限生きる術を与えてやろうと思ったのだ。単なる気まぐれだった。
仕事の方は“和国”が戦争に入ったことにより頓挫してしまったので、暇つぶしの面もあったのだろう。
戦う術を与え、生きる知恵を与え、――そして、名を与えた。アレンという名は自分なりに考えてつけてやった名だったが、親から与えられたそれが一番だろう。神楽という本名を思い出せたのであれば、それが一番だ。
神楽は優秀だったが、特にこれといった特徴は持っていなかった。クレハと互角に戦っていたという隼斗の言葉はすぐには信じられなかったが、クレハのあの態度からすると本当のようだ。
それは、先程神楽が一緒にいた妖獣達と関係があるのだろうか。
(そもそも何故あいつは妖獣と共に“奴ら”を追っている? 青龍を取り返すという目的は推測できる。だが、あいつがそれに自ら関わるのは何故だ?)
考えても答えの出ない問いにルーカスは首を振る。会って直接聞けばいいとも思ったが、神楽達の行動を利用して自分の目的を果たそうと考えたのだ。
“奴らから青龍を奪還する”という目的を。恐らくは神楽達と同じだろうが、そのために手段を選ぶ気は無い。要するに、神楽達と合流してその指針に合わせることが、必ずしもプラスになるとは限らないと考えたのだ。
行動に制約が入るのを嫌ったとも言える。臨機応変に一人で立ち回るのがやはり自分の性に合っている。“放浪者”と呼ばれている所以でもあった。
――まぁそれは建前で実際には、数年ぶりに会う神楽とどんな言葉を交わせばいいのかわからず、日和ったのも大きな理由ではあるのだが。
(とにかく、後を追わないとな)
そして、ルーカスは一人、洞窟の奥へと足を運ぶのだった。




