【第三部】第五十章 洞窟の仕掛け
――“中つ国”東部・山の麓・洞窟内――
洞窟内に灯りは無く、暗闇で満ちていた。神楽達はそれぞれ荷物から照明を取り出し、周囲を照らした。
照らし出された壁は外観通りの岩壁だった。自然にできた洞窟なのだろうか。人の手が入っている様は見て取れない。
生き物の気配は無い。洞窟の先から漏れてくる匂いにも特に異常は感じられない。神楽達は、用心深く周囲を見回しながら奥へと進んだ。
「見た目は普通の岩窟だな」
「楓さんの言っていた通りですね」
元暗部の諜報員が探しても異常は見つからなかったという話だ。そう簡単に見つかるとは神楽も思っていない。だが、今回こちらには“頼もしい味方”がいる。
◆
「魔素の流れは、こっちでおかしくなってるでありんすよ」
「こっちか」
稲姫、大活躍。先頭を歩く神楽の隣を並んで歩いている。敏感に魔素の流れの異常を感じ取っては今の様に行き先を指し示してくれる。神楽達は稲姫に付いて分岐路を選び進んだ。
「行き止まり?」
「パッと見はそうだな。でも――」
「ここでありんすね」
稲姫が地面を手のひらで触る。神楽にも、そこで魔素の流れに異常があるのを感じ取ることができていた。
「不自然なんだよな。ここだけ、“土属性”じゃないものを感じる」
「金属でありんすね」
稲姫が地面の土に手を当てて、その下にある物を推しはかる。何か仕掛けがあるのだろう。神楽達は周囲を探った。
◆
「ん~……。何かボタンでもあるのかにゃ?」
「うむ。その可能性もあろう。周囲の壁に異常が無いかを手探りするしかあるまいて」
照明で壁を照らしながら、皆で異常が無いかを探る。こういう時、人手が多いのは助かる。やがて、そう時を待たずして答えが出た。
「こっちに変な窪みがあるですの!」
「でかしたピノ!」
ピノの呼び掛けに応じ、皆が集まる。確かにそこの壁には、何かをはめ込むような窪みがあった。
「ここに鍵となる何かをはめ込めば地面の仕掛けが開く……ってことかな?」
「そうかもね。ただ、その何かを誰も持っていないんだけどね」
「ちょっと試してみるでありんすよ」
エーリッヒの言う通り、錠を見つけても鍵が無ければどうしようもない。だが、稲姫が近付いて手をかざすと、先程の地面から音が鳴り、地面がせり上がって――いや、地面に埋め込まれていた扉が上に開いた。
奥には階段が見える。
「稲姫! 天才! よくできたな!」
「えへへ……♪ 窪みに物をはめると魔素回路に魔素が流れて扉が開く仕掛けだったから、直接流し込んでみたでありんすよ」
神楽が稲姫をべた褒めして稲姫を可愛がっていると、稲姫が全力でしっぽを振ってご機嫌であることを示していた。
「むぅ……稲姫ちゃんに負けてられないにゃ。戦闘は任せるにゃ!」
「わらわは上方からの支援で役に立って見せるのじゃ!」
琥珀、青姫も負けずとアピールをする。これからが本番で戦いに行くというのに、微塵も不安を感じさせない。頼もしいことだ。
「ああ。頼むよ。――さて、ここから先、敵の拠点に繋がっていると思われる。気を引き締めていくぞ」
皆がうなずくのを見て取ると、神楽は階段を下り地下へと入っていった。




