【第三部】第四十九章 洞窟発見
――“中つ国”東部・山の麓――
「確か、楓に聞いて来た洞窟の場所はこの辺りだったかな」
「そうだね。皆で手分けして探そうか。ここは青龍の眷属の支配領域だから、僕らは猛鋭さんと一緒に探すかな」
シーラー達“マスカレイド”の行方を調べるため、神楽達は青龍の聖域のある山の麓に来ていた。
エーリッヒの言う通り、この辺りを人間だけで探索するのは危ない。ただでさえ青龍を人間がさらったと周知され戦準備までしているのだ。見つかり次第排除されると考えるのが自然だろう。
神楽達はピノと一緒に、エーリッヒ達は猛鋭と一緒に探索を進めた。
◆
「山道の近くにあるはずなんだよな。――って言っても、広いしなぁ……」
「そこら辺にいる眷属を捉まえて聞いた方が早いんじゃないかにゃ?」
「このような状況じゃ。友好的とも思えん。自分達で探した方が無難じゃろうよ」
青姫の言う通りだろう。余計なトラブルはごめんだ。神楽達は自分の足で調査を進める。
「? 主様。ちょっといいでありんすか?」
「何か見つけたか稲姫?」
魔素の異常をつかむのは、やはり稲姫がズバ抜けている。神楽も<神託法>で同じことができるが、精度や規模などはやはり本家の稲姫の方が上だ。なのでこういう時、非常に頼りになる。
「こっちから妙な魔素の流れを感じるでありんすよ」
思った通りだった。稲姫の魔素感知が反応した。神楽も稲姫の指差す方に感覚を向けてみる。――うん、確かに作為的に乱された魔素の流れを感じる。
「でかした稲姫! お~い! みんな~!」
神楽は離れて捜索している皆を呼び集めた。
◆
「やっぱりな。――稲姫! お手柄だぞ!」
「もっと褒めていいでありんすよ?」
「ぬぬ……悔しいが、お手柄じゃのぅ」
稲姫の感じた魔素異常を目指して進むと、やがて洞窟が見えてきた。上手く周囲に溶け込んでいるので、パッと見で洞窟とは気づきにくいだろう。目視での調査に頼っていたら、今の何倍も時間がかかっていたはずだ。稲姫の大手柄だった。
「皆、いいか? 言うなれば、ここから先は敵のテリトリーだ。――命のやり取りにもなる」
「もちろん覚悟はできてるにゃ」
「このために何年も雌伏の時を過ごしてきたのじゃ。サンクエラからもらったこれもあるしのぅ」
青姫は胸元から薄青く輝く石のついたネックレスを取り出す。皆のためにサンクエラが用意してくれた、<結界>の力が込められた“絆石”だった。
「あ、これはピノと猛鋭さんの分な」
「? ――キレイな首飾りですの!」
「これは?」
サンクエラがくれたネックレスはたくさんあり、予備も含まれていたので二人にも渡しておく。ピノはキレイなアクセサリーをもらえたと喜んでおり、猛鋭は訳が分からず首をかしげていた。
ちなみに、朱雀の眷属はこの近くで待機だ。あくまでここから先の同行は、朱雀側はピノのみだ。朱雀の眷属はここで見張りと、帰りの足になってくれる手はずだ。
「この石には<結界>の力が込められている。――こう使うんだ」
神楽は自分のもので実演してみせる。石に魔素を通すと、アーティファクトと同様の要領で自動的に<結界>が発動した。
「スゴイですの!」
「おお。こんなことが……」
二人も驚いている。神楽をまねて早速やってみる。
「できましたの!」
「この力が私達の襲撃をはね退けていたのですね」
二人共問題無く結界を発動できてなによりだ。猛鋭は手でコンコンと結界を叩いて感触を確かめている。
猛鋭の言う通り、この結界が西の山で神楽達が逃げる時に張っていたものだと答えると、猛鋭は「なるほど。道理で」と納得したようだった。
「じゃあ行くぞ! “青龍”の奪還をしに! まずは、この洞窟の調査だ」
神楽を先頭に、皆が洞窟へと踏み込んだ。




