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神の盟友  作者: 八重桜インコ愛好家
第三部 “中つ国動乱”編
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【第三部】第四十八章 兵の手配

――“マスカレイド”中つ国拠点・研究室――



「博士、ちょっといいかな?」

「んん~? すぐ終わるから、ちょっと待っていなさい」


 少年が研究室に入ると、博士が試験管を手に何やら実験をしていた。少年の方には見向きもしない。いつものことだ。少年は椅子の一つに腰かけると、博士の手が空くのを待った。


「う~ん……。これはダメですね。やはり、妖獣の因子が強すぎて、細胞がもちません」


 やれやれといった感じで博士が首を横に振り、大仰に天を仰いだ。これもいつものことだ。とにかく、いちいちオーバーアクションなのだ。


 優秀過ぎる頭脳と多大な実績を持っているから、このような奇態(きたい)に文句を言う者もいないが。――いや、博士の“残酷さ”を恐れて苦言を言う者などいないだけか。


 博士は試験管を片付けると、ようやく少年の方に振り向いた。


「おや、いたのですか、()()()()

「さっき声をかけたんだけどね」


 返事をしていただろとは言わない。無駄に機嫌を損ねて妙案を却下されても面白くない。S―01は早速話を切り出した。



「妖獣が人間達になかなか攻め込まないんだ。それで、ちょっと提案があってさ」

「放っておけば、そのうち戦い始めるのではないですか?」


 博士は興味無さげに次の試験管を手に取っていた。また実験に夢中になられても困る。S―01は遠回りせず本題を投げ掛けた。


「兵を貸して欲しい。妖獣と人間の兵を。――そうだな。数は各五百程」

「何をするのです?」

「ちょっかいを出すんだよ。妖獣と人間が争い合うようにしむけるんだ。内部に潜り込ませてる諜報員達も呼応させてね」

「ふむ……。しかし、急ぐ理由がありません。放っておけば勝手に戦い始めるでしょう?」

「聞いてないのかい? 妖獣側には待機指示が出回ってるんだよ」

「一時的なものじゃないのですか?」

「怖気づいてるのかもしれない。尻を叩いてさっさと戦わせた方が、“博士の計画”にもいいと思うんだけど?」


 博士の欲を刺激する。博士の計画は、元々こうだ。


 青龍を奪い、妖獣と人間を争わせる。その隙をついて、有力な妖獣を多数奪ってくる。


 至ってシンプルで計画という程のものでもないが、かつて“和国”でもしてきたことを、ここ“中つ国”で繰り返そうとしている。一度味をしめているので、反対意見も出なかった。


――博士に反対できる者など、この研究施設にはいないだけとも言えるが。



「ん~……。せっかく準備した兵を減らされても困りますよ?」

「大丈夫。その辺は上手くやるよ。あくまで戦のきっかけを作るだけ。人間側には妖獣を、妖獣側には人間をけしかけて、混乱を煽ったらすぐに引くさ」


 この研究施設にいる妖獣は精神支配が十分できている。どんな命令にも逆らわずに従うだろう。


 それに、この研究施設にはかなりの数の妖獣が収容されている。地下にあるとはいえ、この研究施設は大規模なのだ。このくらいの兵数なら貸し出してもらえるだろうと踏んでの算段だった。


 博士はひとしきり悩んだ後、やがて欲が勝ったのかS―01の要望を受け入れた。


「わかりました。連れて行きなさい。――あ、“青龍”はダメですよ?」

「わかってるよ。じゃ、早速支度に入るとするよ」


 少年は鼻歌でも歌いそうな程機嫌よく研究室を後にした。一人、部屋に残った博士が独り言ちる。


「そもそも、何で妖獣達は攻め込まないんですかねぇ……? ――まぁ、いいです」



 そして、またすぐに興味を失い、博士は実験を再開する。新たな実験素材が手に入る期待に胸を高鳴らせながら。



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