【第三部】第四十一章 守護長城の通過
――人界・西都付近・守護長城上――
「何だアレ?」
「あ、あれは朱雀の眷属じゃないのか!? 警鐘を鳴らせ!」
西の要所――“西都”に近い“守護長城”の城壁上で、見張りの兵が西からの飛来物――いや、朱雀の眷属と思われる大きな鳥達を発見した。小さいのも隣に数体飛んでいる。
敵の奇襲と考えた見張りが急ぎ警鐘を鳴らし、周りに知らせた。続々と弓兵が集まってくる。
弓兵達が弦を引き絞り、標的に向け矢を射ろうと狙いを定める。しかし、弓兵の一人は弓を下げ、自分の目元を手で擦った。
「――俺、どうかしてるのかな? “人が見える”」
「はぁ!? そんなこと言ってる場合か。――って、マジかよ!?」
そう。大きな鳥達の背には、どう見ても人間らしき物体が乗っていた。こちらを気にした風もなく、鳥達は守護長城の上を通り過ぎていく。
「何を呆けている! 侵入されたぞ! 急ぎ<念話>を使える奴に伝えて、“央都”や他の都にも伝えろ!」
「は、ハッ! 承知しました!」
「直ちに!」
見張りの兵士達は弓を背に戻し、詰所に走って行った。
◆
――上空にて――
「あ~……。時短で突っ切ったのはマズかったかな、やっぱ」
「仕方無かろう。“守護長城”を避けて通るのは大幅なタイムロスになるしのぅ」
「高度をとって結界を張ってれば、とりあえずは何とかなりそうだな」
怖いのはやはり弓などの遠距離攻撃だが、神楽は常に広域の<結界>を張っている。一般兵の攻撃くらいじゃビクともしない自負がある。そんな自信もあって、都の直上は避けつつも、人界の上空を突破しているのだった。
◆
――東都・ギルド“宵の明星”中つ国拠点――
「ハヤト! 面白いことになってきたね!」
「いや、面白がっちゃダメだよクレハ。とうとう妖獣達の侵攻が始まったのかもしれないんだから」
ブラッククラスギルド“宵の明星”の“中つ国”拠点。妖獣との戦争に備え、メンバーは既に四方に散らばっていた。
今は、ここ東都の守りを任されているクレハと、手の足りない戦線への応援待機戦力として、ギルドマスターの隼斗が拠点のロビーに控えていた。
控えていたと言えば聞こえはいいが、クレハはいつも通り、お菓子を食べたり雑誌を読んだりしてくつろいでいるだけだ。戦準備や雑用は、リリカを含めたグループのメンバー三人に押し付けてある。
クレハの自由奔放さは今に始まったことでもないので、誰からも文句が出ていないのも悲しいことではある。
隼斗やヴィクトリアは過去に何度か注意はしたが、リリカ達の方から「いえ、この方がやりやすいので、今のままでいいです」と断ってきた。
そう言われるとどうしようもなく、今の状態に至る。なまじ、クレハの実力が高すぎるために女王様――いや、ワガママ王女様みたいに扱われているのは必然だったのだろうか。
そんな余談はさておき、たった今、西都に詰めている刹那から緊急の念話が入ったのだった。
◆
『朱雀の眷属達が、人間達を乗せて西の守護長城上空を東に向けて通過していった』
それを刹那から聞いた隼斗は考え込み、クレハは楽しそうに笑い飛ばした。
妖獣だけで来たなら、戦争に関連した何らかの軍事行動という予測はつく。――だが、なぜ人間と一緒に? 特に、あの気性の荒い朱雀の眷属と一緒なんて、そんな人間がいるのか?
いくら考えても答えは出ない。直接会って話してみるしかなさそうだ。隼斗は軽くこめかみを手でほぐしつつ、クレハに向き直った。
「もうすぐこっちにも来るかな!? 来たら倒してもいいよね?」
「ダメだよ。向こうから襲ってきたら仕方無いけど、こっちからは仕掛けず、足止めする。そして、訳を聞き出す。いいね?」
「じゃあさじゃあさ! 足止めのために攻撃するのはいいよね!?」
「……まぁ、向こうから侵入してきてるしね。そのくらいの覚悟はあるだろう。でも、なるべく牽制程度に――」
「うん、わかった! 行ってくるね!!」
隼斗の言葉を最後まで聞かず、クレハがロビーを飛び出して行った。隼斗はため息をつきつつ、クレハの後を追ってロビーを出るのだった。




