【第三部】第四十章 楽しい空の旅
――西の街道――
「……ラルフ」
「おぅ。戻ってきたか……って、――なにぃ!?」
「お待たせ~」
レイン、ラルフが待つ西の街道脇の馬車に、神楽達が現れた。――虎の背に乗って。流石のラルフも驚きを隠せない。
レインの方は神楽達をうらやましそうに見ながら、「……私も乗ってみたい」と子供っぽいことを言っていた。一応、虎も猫科の動物だからだろうか。ラルフには理解できない。
神楽達は二人の目の前まで来ると、虎から降りて礼を言い、二人に話しかける。
「驚いただろ? 白虎や朱雀に状況を説明したら、力を貸してくれることになったんだ」
「東の洞窟へは朱雀さんの眷属が乗せて行ってくれることになっててね。――噂をすれば……来たみたいだ」
エーリッヒも虎から降りて話に加わってきた。ちょうど頃合いよく、南の空からこちらに向かってくる、朱雀程ではないが大きな鳥達がいた。
鳥達は神楽達の方に滑空してきて、目の前に降り立った。
「朱雀の眷属達でいいのかな? 悪いけど、よろしく頼むよ」
神楽が声をかけると、先頭の特に大きな一体が頷いた。人化はできないのだろうか。まぁ、乗せて行ってくれるだけで感謝なので、踏み込まないでおく。
「こちらが妖虎の猛鋭さん。白虎の好意で、同行してもらえることになった」
「猛鋭で結構です。宜しく頼みます」
猛鋭が人化して皆に挨拶する。言葉の調子通り生真面目そうだが、集団のリーダーとしての威厳が備わっていた。凄く頼もしい。
「ピノも朱雀の好意で同行してくれることになった」
「よろしくですの!」
ピノは相変わらず元気いっぱいだった。見ていて微笑ましい。
◆
「早速東に向かいたいところだけど、馬車はどうしようか」
「里までは距離がありますしね」
「そこらに繋いどくのもなぁ……」
「……荷物や馬が心配」
「では、こちらで預かっておきましょうか。おい、お前達――」
猛鋭が部下にテキパキ指示を出す。馬車を安全なところに移動させ、見張っていてくれることになった。至れりつくせりだ。
「ありがとうございます。じゃあみんな、武器や貴重品、食糧とか最低限必要なものを持って、早速向かおうか」
そうして、神楽達は東の洞窟へ向け、空の旅に出る。
◆
「こりゃスゲェ! まさかこんな体験が出来るなんてな!」
「……ふわふわ。もふもふ」
「ラルフさん。エーリッヒさんと同じ反応ですね」
「僕、あんなにはしゃいでたかな?」
初めての空の旅に興奮するラルフ。そんなことお構いなしに、乗っている鳥の羽毛をにぎにぎしているレイン。
稲姫はまだ慣れないのか縮こまって神楽の胴体に両腕を回してガッチリホールドしていた。まぁ確かに、こんな上空から落ちたら、まず無事じゃ済まないからな。琥珀ならピンピンしてそうな気はするが。そんな琥珀を見てみると――
「にゃはは!♪ ハイヨー!」
「キュアァ!?」
ご機嫌に、乗っている鳥にスピードを出させようとする。鳥からは悲鳴がもれていた。
「琥珀! 乗せてもらってるんだから困らせちゃダメだぞ?」
「わかってるにゃ! ――だけど、こう、血が騒ぐにゃ」
「琥珀よ。よくわからぬが、少しは自重せい」
乗り物に乗ると琥珀の中で眠ってる何かが目覚めてしまうのだろうか。青姫にもたしなめられてようやく大人しくなった。
青姫とピノは自分で飛んでいる。いつの間にか仲良くなったようで、ピノが青姫にベッタリだ。青姫もまんざらでもなさそうで、楽しそうにおしゃべりしながら並んで飛んでいた。
そんなこんなで、神楽達は楽しい空の旅をしながら人界の上空を東に横切るのだった。




