【第三部】第三十九章 白虎の聖域にて④
――“中つ国・西・白虎の聖域”――
「して、神楽……だったか? お前は“奴”に勝つ算段はあるのか? かつては敗けたのだろう?」
「確かに前は敗けたが、もう敗けるつもりはないよ。対策は……まぁ、いくつか考えてある」
白虎の無遠慮な問いにも、神楽に気にした様子はない。あの時は奴――“シーラー”――の能力が未知数のまま戦い、予想だにせぬ能力に翻弄され敗けてしまった。
敗けてはしまったものの、今こうして生きている。そして、シーラーの能力に対抗する手段はいくつか考えてある。神楽はそれを白虎や朱雀達に話して聞かせた。
◆
「――待て! 今、無視できない内容があったぞ!」
「うむ。神楽よ。其方は余ら“妖獣の力を使える”と申すか?」
「あれ? 言ってなかったっけ……?」
シーラーへの対策として、神界から来た“一角獣”や“二角獣”の力を使うと説明していたところ、白虎や朱雀から待ったがかかる。
「お前が“御使いの一族”だとは聞いた。だが、そんな力があるなんて聞いてないぞ?」
「そうだったか……。簡単に言うと、俺達“御使いの一族”は<神託法>という権能があって、“妖獣と信頼を築くと、その妖獣の力が使える”んだ」
「待つがいい。奴の能力も大概狂っているが、お前達の能力も十分おかしいぞ!?」
「って言われてもな……」
「にわかには信じられん。試しに何か使ってみるのじゃ」
朱雀の提案に乗り、神楽は少し離れて実演することにした。
◆
「<蒼炎>」
掌から蒼い炎を出す。妖獣達からどよめきが起こる。
「<紫電>」
身体に紫の雷を纏う。どよめきに拍手も混じった。
「――あ。これなら早いか? <琥珀シャドー>」
琥珀を模倣した黒い琥珀――<琥珀シャドー>を造り出す。地面からせり上がるようにソレは現れた。
「び、白虎様! ソレです! この前私が戦ったのは!」
「馬鹿な……本当に使えるのか」
「余の炎を防いだのはその力かのぅ?」
「そうだな。厳密には、最後は稲姫の力も借りたけど、俺が<結界>を張って防いだよ。――こんな風に」
神楽が自分の周囲に<結界>を張ってみせる。結界は基本的に透明だが、ある程度は操作することも可能だ。わかりやすいように、白色をベースに透明化した結界を張ってみせた。
「それが“一角獣”の<結界>か……。なら、その黒いやつが“二角獣”の<複製>か?」
「ご名答。この二つの力が奴を倒す鍵になる。あの二人は神界に住んでいた“幻獣”だからか、“門”の形も琥珀達とは違った。だから奴の“封印”も効かない可能性がある」
続けて、神楽は背負っていた槍を手に持ち、掲げてみせた。
「それと、奴の“門を閉じる”力は、ドーム状の結界に相手を閉じ込めて発揮されるみたいだから、その外からこれを投げつけるのも有効だと考えられる」
「それは何だ? 初めて見た時から気にはなってたが」
「“大きな力”を感じるのぅ」
白虎や朱雀からしても珍しい武器らしい。神楽としては自慢できて嬉しくなる。
「とある事情で“一角獣”の群れに襲われてな。その時に投げつけられたのを拝借してきたんだよ。聞いたところ、“神託武器”の“神槍グングニル”って言うらしい」
「なんと! “鍛治神”の鍛えた武器か!」
「なるほどのぅ。道理で異質な力を感じる訳じゃ」
「二人とも、知ってるのか?」
二人が詳しそうだ。神楽は素直に聞いてみることにした。
「“鍛治神ヘファイストス”の打った武器のことを“神託武器”と呼んでおるのだ。俺達妖獣の間では」
「“神槍グングニル”というと、神オーディンの槍か。――となると、これはその“レプリカ”か」
お気に入りの武器なので“レプリカ”呼ばわりされるとムッときてしまう神楽だが、ここで朱雀を怒らせたくはないので我慢してこらえた。
「レプリカといえど、鍛治神の打った武器には違いあるまい。――なるほど。確かにこれなら勝ちの目もあるだろうな」
「だよなだよな! “持てば力が沸いてくる”! “投げれば<必中>”! そして、“凄まじい貫通力”! これは名品ですよ!」
「――ご主人。落ち着くにゃ……」
「うむ。嬉しいのはわかったが……」
「ちょっと恥ずかしいでありんすよ……」
ちょっと浮かれすぎたかもしれない。神楽はコホンと咳払いし、気を取り直す。
「という訳で、いくつか対策は考えてある。それでも足りなかったらその時はその時で、また別の対策を考えるまでだ。――早く青龍を取り戻さないといけないしな」
白虎や朱雀も納得したようだ。他の者も含め、異論は出なかった。
「では、早速動こうぞ。猛鋭はともかく、完璧に人化できないピノを連れては人界を通れないじゃろうし、空を飛んだ方が早いから余の眷属を手配するとしよう。それと、余は“玄武”と“青龍の眷属達”に開戦を一旦待つよう伝えてくる。――白虎よ。神楽達を、仲間が待つ場所まで運んではくれぬか?」
「お安い御用だ。――猛鋭」
「ハッ! 私と部下で神楽殿達を運びましょう。運び終わった後は、私だけ神楽殿に付いて行き、他の者は戻らせます」
朱雀や白虎のしきりでドンドン話がまとまっていく。
神楽は思わぬ状況の好転に巡り合い、朱雀に襲われたけど結果としてよかったなと思い直すのだった。




