【第三部】第三十三章 説得
――西の街道――
「では其方達は、青龍をさらった賊とは無関係と申すか」
「だからそう言っておるであろう!? むしろ奴らは、わらわ達の“敵”じゃ!!」
青姫全力の説得で、何とか朱雀の誤解を解きつつあった。だが、朱雀の目は依然として厳しさを孕んでいる。
「では何故、其方違は白虎の眷属が住まう地に無断で入り込んだのじゃ? 白虎達から聞いておるのだぞ? 其方達のことは」
「勝手に入ったのは申し訳なかった。だが、もうすぐ人間と妖獣の戦争が始まろうという時に、その二つの種族が一緒にいる集団など、要らぬ誤解を与える以外無かろう? だから、こそっと通り抜けさせてもらったのじゃ」
この女――青姫とやらが嘘をついているようには見えない。それに、人間に無理矢理従わされたり操られたりしてるようにも。
むしろ、先程から人間のことを『我が君』などと呼び、とても嬉しそうに語っているくらいだ。
朱雀は青姫達に興味を持った。――特に、一緒にいるという人間に。
「其方の言い分はわかった。だが、其方の仲間達からも話を聞きたい。よいな?」
「もちろんじゃ」
青姫は先導するように馬車の方に降下していき、朱雀とピノが後に続いた。
◆
青姫が馬車から飛び立ち朱雀の方に向かって行ってしまい、神楽は気が気じゃなかった。心配でソワソワしながら成り行きを見守っている。
「ご主人。ちょっと落ち着くにゃ」
「わかっちゃいるんだけど心配じゃないか。――というか琥珀、お前は終始落ち着きすぎだろ。危うく皆、灰になりかけたんだぞ?」
朱雀からの最初の攻撃の時、琥珀は寝ていたくらいだしな。死にもの狂いで対応した俺と稲姫を労って欲しい。だが、そんな神楽の思いを知ってか知らずか、琥珀は笑い飛ばす。
「にゃはは!♪ ご主人と稲姫ちゃんなら大丈夫だって信じてたにゃ!」
「むぅ……そう言われると怒れない」
信頼して身を預けられて悪い気はしないが、『なんか、もうちょっとこう……あるだろ?』って感じだ。神楽は唇をとがらせるのだった。
「……降りてくる」
レインが青姫達のいる上空を指差し、皆に状況の変化を知らせた。
◆
神楽達は皆、馬車から降りて青姫達を出迎えた。
まずは青姫が、続いて朱雀が、最後に見知らぬ鳥のような少女が地に降り立った。
巨大な妖鳥だった朱雀が光に包まれると、光の中から人の姿が現れた。
「――お、おお!」
「……む」
「ご主人、色ボケにゃ」
「浮気者でありんす」
光が収まると、なんと妙齢の美女が現れた。赤い長髪を背に流し、肢体の肉付きもよい、絶世の美女だった。
神楽に限らず男性陣がごくりと喉を鳴らした。そして女性陣からは、氷点下もかくやという程の極寒の視線が神楽に注がれた。
「まずは初めましてかのぅ。余は朱雀。知っていると思うが、ここ“中つ国”の妖獣を統べる“四神獣”の一角――“南の朱雀”じゃよ」
その美女から、鈴の鳴るような美声が神楽達に投げ掛けられるのだった。




