【第三部】第三十一章 晴れ時々朱雀
――西の街道――
「いい天気だなぁ」
「お日様が気持ちいいでありんすね」
宿場町を出て街道を西都に向け進んでいく。昼になり太陽が昇ると、陽射しがぽかぽかと気持ちいい。
馬車の荷台は左右天井を木の壁で囲まれているわけだが、御者台に面した前部や側面に嵌められた窓から陽射しが射し込んで、とても気持ちいい。琥珀なんかは日向ぼっこで荷台にどべ~っとしている。
「なんか俺も眠くなってきた……」
神楽も気持ちよさからうつらうつらしてきたが、エーリッヒ達を差し置いて寝る訳にもいかない。琥珀を見ると隣で寝転びたくなるので、なるべく見ないようにした。
それからしばらく経った頃――
「主様主様! 大きな鳥さんでありんすよ!」
「へ~。こんなのもいるんだな」
稲姫が御者台に顔を出し、天空を指差す。神楽も続いて見てみると、確かに大きい。翼を広げて滑空している。
カッコいいなぁ。そんなことを考えながら空飛ぶ巨大な鳥を眺めていた神楽だが――
――なんか、滑空しながらこちらに向かってきてる気がする。
「我が君! あれは“朱雀”じゃぞ!?」
「は、はぁ!? なんで“四神獣”がこんなとこにいるんだよ!」
「ここじゃ隠れる場所なんてない! ――来るよ!!」
焦った声のエーリッヒが皆に注意を促す。
――え? えぇ!?
神楽達の混乱などおかまいなしに、朱雀が馬車に急迫し、――いきなり紅蓮の炎を吐いてきた。
◆
「あ、あっぶねぇ! ――なんだよ、いきなりすぎんだろ!?」
間一髪で神楽が馬車まわりに<結界>を張りなんとか炎をしのいだ。サンクエラと“縁を結んだ”ことで、結界の強度は以前よりも格段に増している。それでも結界に歪みが入るくらいの炎だったことに、神楽は戦慄した。
「う~ん。うるさいにゃあ……」
琥珀が煩わしげに目を擦りながら起き上がる。気持ちいい睡眠を妨げられて機嫌が悪そうだ。
――と、今はそんな場合じゃない!
「次、来るよ!!」
エーリッヒの慌てた怒鳴り声に、神楽は慌てて結界を張り直す。まもなくして、二度目の衝撃が結界を襲った。目の前一面が紅蓮に彩られる。
◆
神楽達が恐慌に見舞われてる頃――
朱雀も驚愕に見舞われていた。
(余の炎を二度も防いだじゃと……? なるほど、青龍がやられるのもうなずける。――だが!)
朱雀は旋回を辞め、空中に留まると意識を集中しだす。
――すると、巨大な炎球が朱雀の目の前に形成されていくのだった。
◆
「わ、我が君……アレはマズいぞ!? わらわの<豪火球>みたいなものだと思うが、規模が桁違いじゃ!!」
「わ、わかってるよ! 稲姫! <魔素分解領域>を結界外に全力展開!!」
「わかりんした!!」
青姫が青ざめながら注意を促すが、言われるまでもなく神楽にもわかる。
アレを食らったらおそらく結界を破られる。――“四神獣”。妖獣達の“守護神”の力は伊達ではなかった。
稲姫が、神楽の張った結界外に<魔素分解領域>を形成する。尻尾が三本になり力を取り戻した稲姫の全力だ。神楽は、自分の結界と合わせ、取り得る限りの最善を尽くした。
――そしてついに、紅蓮の巨大豪火球が朱雀から馬車に向け放たれるのだった。




