【第三部】第二十四章 “縁結び”再び
――“中つ国”人界西部・隠れ里・神盟旅団本部――
「これで全員かな……。皆、ありがとな!」
「よかったにゃ!」
「これで本当に元通りでありんすね!」
「うむ! よきかな!」
神楽達は翌日、隠れ里の神盟旅団本部に来ていた。3年前、“マスカレイド”との戦で神楽達神盟旅団は敗れたが、琥珀と青姫が生き残った旅団員を連れて、避難民と共にここまで逃げ延びていた。数はだいぶ減ってしまっているものの、組織としては再構築され何とか維持されていたのだ。
ここに来たのは“縁を再び結ぶため”。シーラーの能力により一度力と記憶を失った神楽の力を拡大・安定化させるために儀式をしに来たのだ。
神盟旅団本部に着くと、神楽は過去の仲間達から再会を喜ばれたが、未だ記憶が回復しきっていないこともあり、どこかドギマギしながらの応対となった。
神主さんのところまで行き、神楽が「三人と縁を結び直したい」と言った時は、神主さんから「そ、そんなの例がありません。どうなるかわかりませんぞ!?」と不安を煽られることを言われたが、こうして無事縁を結び直せたことで、皆の表情に明るさが戻っていた。
◆
「それで、どうにゃ?」
「ん~……確かに、前よりも力を使えそうな感じがするな。さて――」
神楽は目を閉じ意識を集中し、記憶と力を失って以来使えなかった琥珀の<闘気解放>が使えないか試してみる。
周囲の気を取り込み、身の内で自分に合う“闘気”に練り上げる。そして、それを“解放”して“オーラ”として自身に纏わせる。
原理さえわかっていれば、後は実践するだけだ。意識を内側に向けると、門から今まで以上の力の流入を感じる。それを用い、原理通りに実践する。すると――
「やったにゃ! ご主人、復活にゃ!!」
「強そうでありんす!」
「うむ! それに、“以前”よりも纏うオーラの質が上がっているのではないかえ?」
三人の賛辞の声に神楽が目を開けると、自身の身体に肉眼でも視認できる程の濃密なオーラを纏っている様が映った。
成功だった。今までの<肉体活性>とは比べ物にならないくらいの力のみなぎりを感じる。
試しに近くにあった岩に手刀を入れてみると、簡単に両断できた。喜び合う神楽達だが、清掃のおじさんに見咎められ、外でやってくれと怒られてしまった。だが――
「ここまでは予定通り。――じゃあ、“皆”のところに戻ろうか」
神楽は三人を連れて、“他の皆”が待つ“お堂”へと戻った。
◆
「やあ。皆、待たせたな。無事三人と“縁を結び直す”ことができたよ。――それで、皆は“どう”かな?」
「うむ。我らも、神主から一通りの説明を受けたところだ」
「ああ。問題ない。俺達はお前を“信頼”してるし、裏切るつもりもないからな」
「ええ。あなた達には助けてもらった恩もあるし、是非協力させて」
お堂に着くと、他の皆――雷牙、ルーヴィアル、サンクエラがいた。
――そう。ここに来た第二の目的。三人との“縁結び”だ。
これだけ多人数と縁を結んだ例は、歴史の古い“御使いの一族”といえど、記録に無い。「三人とも新たに縁を結びたい」と伝えた時の神主の反応は印象深かった。驚きを通り越して呆れ顔になっており、「どうなっても知りませんぞ? 止めはしませんが」と、困り顔で笑ったのだった。
三人を連れて神主のところに向かう。まずは、雷牙と一緒に円形に設えられた縄の中に入る。いつもの様に、縄の外周に灰色の粉が撒かれた。
神主の祝詞が進むにつれ、灰色の粉が発光する。――“紫色”に。それが最高に光り輝いた時、縁結びは終わった。
「どうなのだ?」
「うん。前よりも力を感じる……。成功だ!」
雷牙との縁結びは成功した。これで、以前よりも力を行使できるだろう。――そして、次はルーヴィアルとだった。
◆
「何かソワソワするな」
「まぁ、こんなの普通はやることないだろうしね。でも気楽にいこう」
ルーヴィアルと縄の内側に入り、神主が祝詞が唱える。灰色の粉が“黒”へと変わり辺りを漆黒に彩った。そうして、ルーヴィアルとも無事、縁を結ぶことができた。
「どうだ?」
「うん。問題無い。成功だ!」
今までの皆とは“門”の形が違うので実は心配だったのだが、原理は同じらしく、問題なく“縁結び”はできた様だ。神楽はホッと胸を撫でおろす。最後は――
◆
「サンクエラ。頼むね」
「ええ。こちらこそ」
目の見えないサンクエラの手を取り、輪の内側に入る。それを見たルーヴィアルがむっとしているが、邪念は厳禁だ。神楽は意図的に思考の外に無理やり追い出す。
神楽はサンクエラの手を取ったまま目を閉じ集中する。神主が祝詞を紡いでいった。すると――
「ふわぁ……」
「綺麗にゃね」
「うむ。見事じゃ」
少し離れたところで見守っている稲姫達から感嘆が漏れる。それに気付き神楽が目を開けると――
“眩い白”が神楽達の周囲を彩っていた。稲姫との縁結びの時も一際綺麗に光り輝いていたが、これはその時と比べても負けていない。それ程見事な“縁結び”だった。
儀式が済み、サンクエラの手を引いて輪の外に出る。皆が近寄ってきた。
「わっちも負けてないでありんすが、綺麗だったでありんすね」
「悔しいけどすごかったにゃ!」
「うむ! ――少し嫉妬してしまうのぅ」
「当事者で色が変わるというのは面白いものだな」
「――サンクエラを取られた様で、複雑な気分だ」
皆、各々賛辞や感想を神楽とサンクエラに告げてくる。――ルーヴィアルのそれは、どこか呪詛めいていたが……。
「あなたの“心の光”を一際強く感じたわ。――これは、“心を通じ合わせる”儀式なのね」
「ああ。お互いの“信頼”を深めてより確かなものにする。そのための儀式だからね。俺にもサンクエラの“純潔さ”が、一際強く感じられたよ」
神楽とサンクエラが笑顔で向き合う。どこか他者が入り込みにくい空気を纏っており――
「はいはい! そこまでにゃ!」
「もう儀式は終わったでありんすから!」
「う、うむ! ――ちょっと怖くなってきたのじゃ!」
「神楽。いい度胸だ。表に出ろ」
皆が神楽とサンクエラの間に割って入り、引き離す。ルーヴィアルに至ってはマジギレしていた。――ちょっと無神経だったかもしれないと、神楽は少し反省した。
「じゃあ、帰ろうか! 今日はお祝いだ!」
――そうして、無事の成功を喜び、皆で意気揚々と家に引き上げていくのだった。




