【第三部】第二十三章 “宵の明星”戦前ミーティング②
――ギルド“宵の明星”中つ国拠点――
「支部長が国の上層部の会議に呼ばれてね。そこで聞いてきた軍の配備はこうだ」
隼斗が卓上の“中つ国”地図にオブジェクトを並べていく。兵士や亀、鳥、虎など、どこで用意したのか、様々なオブジェクトが並べられていった。
――国の上層部会議で共有された軍の配置情報は次の通り。
中央三万……“央都”
【備考】“守護長城”の突破を防ぐことを優先し、動員数を削減。
北十五万……“北都” 対 “玄武”
【備考】最も進行を食い止めるのが難しいと予想されるため、動員数を最大に。
南十万…………“南都” 対 “朱雀”
【備考】遠距離戦のできる弓兵や魔法兵を多数城壁上に配備。また、“守護長城”―央都間に、対空陣地を複数設営。
西十二万……“西都” 対 “白虎”
【備考】純粋な戦闘力だとトップクラスの相手であるため、要注意。
東十万……“東都” 対 “青龍の眷属達”
【備考】青龍の抜けはあるが、眷属の戦闘力は侮り難し。また、青龍を拉致され、最も気勢を上げて襲ってくると予想される。
「大体こんな感じかな。じゃあ、僕らの配置を相談しようか。――ヴィクトリア」
「はい」
隼斗が説明を終えると参謀であるヴィクトリアが後を引き継いだ。ヴィクトリアがどこからか教鞭の様な鞭を取り出し、地図を指し示した。
◆
「軍の配備としては妥当でしょう。ただ、特記戦力――“四神獣”と“神獣”に対するには、“数でなく質”の勝負になります。そのため、うちのギルドからも各地に分けて人員を送り出します」
ヴィクトリアはこれまたどこから出したのか、ギルドメンバーを示すオブジェクトを地図の上に置いていく。
「北は玄武やその眷属の巨体による進行を抑える重戦士が求められるため、“ガイル”グループ」
「おう!」
ガイルが望むところとばかりに、右拳を左掌に打ち付けてやる気をアピールする。
「西は白虎達――敏捷性と近接物理戦に特化した集団が相手になるので、高速戦闘を得意とする“刹那”グループを向かわせます」
「うん、いいんじゃないかな。仕事続きで刹那には悪いけど、そろそろ呼び戻さないとね」
青龍をかどわかした“犯人”を捜索中の刹那に白羽の矢が立つ。いない刹那の代わりに、隼斗が了承を返した。
「東は青龍の眷属達――青龍不在とはいえ、龍族は白虎と共に、戦闘面では最大クラスの脅威です。加えて、マスターからの説明にもあった通り、今回の発端――青龍の拉致による被害者達であり、その怒りは計り知れないでしょう。激戦が予想されます。――クレハ、任せてもいいですか?」
「うん! まっかせて!」
クレハが躊躇なく了承し、隣に座るリリカが顔を青ざめさせていた。いつものこととは言え憐れを誘う光景だが、クレハの戦闘力はメンバーの誰もが認めているため、意を唱える者はいなかった。
「最後の南は朱雀達――飛行戦力が多数含まれるため、私が出向きます」
「僕はどこに行けばいいんだい?」
参謀の参戦だが、ヴィクトリアの戦闘力も折り紙付きなので、異を唱える者はいない。ヴィクトリアは特に遠距離戦を得意としていることもあり、相性もピッタリといえた。隼斗は名前を呼ばれなかった自分の配置先をヴィクトリアに尋ねる。
「マスターにはこの拠点に待機して頂き、状況に応じて手の足りないところへ行ってもらいます」
「うん、了解だ」
この拠点は東にあるが、隼斗の技能をもってすれば、遠く離れた場所への移動も容易だった。これについても他のメンバーから異論は無く、これですべてのメンバーに指示が行き渡った。いや、あと一人――
「ルーカスはどうすんだ?」
「彼には引き続き、“犯人”の捜索を続けてもらいます。――今からでも戦争を止められる可能性があるとすれば、彼しかいないでしょう」
ガイルの問いにヴィクトリアが答える。普段ヴィクトリアはルーカスに厳しく当たってはいるが、その力量の高さはヴィクトリアも認めるところだった。特に捜索能力にかけては随一だろう。これで今度こそ皆の行動方針が定まった。隼斗が皆を見回し、態度を改めて告げる。
「皆、“戦争”だ。おそらく、僕らにも被害は出るだろう。でも――」
そこで言葉を区切り、深呼吸してから続ける。
「退くわけにはいかない。これ以上、僕ら人間の住める場所を減らす訳にはいかないんだ。だから、――絶対勝つぞ!!」
「「「はい!!」」」
皆が威勢よく返事をし、各自準備に動き出す。
――そうして、最高峰クラスのギルド“宵の明星”が此度の戦争へ参戦することになった。




