【第三部】第十八章 これからは“神楽”に
――“中つ国”人界西部・隠れ里・春と楓の家――
「それにしてもややこしいな。“アレン”――いや、“神楽”なのか? つまりはどっちなのだ?」
雷牙からだった。酒が回っていることもあり、いつもより遠慮が無い。
「私もあんたが“アレン”って呼ばれてるのには違和感があってねぇ」
春も参戦する。アレンは「う~ん」と腕を組み少し悩むが――
「どっちでもいい」
思ったままを口にした。
――“アレン”と“神楽”。どちらも大切な人が付けてくれた大切な名前だ。どちらで呼んでもらってもいい。特に混乱しないし、とアレンは割り切ってそう答えるが――
「いや、其方がよくても、皆が困るのだ」
雷牙から冷静なツッコミが入った。そして、折角なので皆にも意見をもらった。
◆
「“神楽”でいいんじゃない? その“お世話になった人”には感謝してるけど、せっかく私とお父さんが一生懸命考えて付けたんだし」
「“アレン”はやっぱり違和感あるよね」
神楽派……春、楓
「一つ困るのは、エクスプローラー協会に“アレン”で登録しちゃってることだね。“神楽”だと今後、混乱するかも」
「まぁ、そうかもな」
「……私はどちらでも構わない」
便宜上アレン派……エーリッヒ、ラルフ
「うちは“ご主人”って呼んでるからどっちでもいいにゃ」
「わっちも。“主様”は主様でありんすから」
「わらわも“我が君”と呼んでおるしの」
「我はどちらでもよいぞ? どちらかに決めてくれさえすれば」
「俺もだ。――というか、俺は別に混乱しないし、両方でも構わない」
「私もルーヴィアルと同じね」
どちらでもいいが一つに決めてくれ派……雷牙
どちらでもいい派……妖獣三人娘、レイン、ルーヴィアル、サンクエラ
まとめるとこんな感じだった。
◆
「えっと……結構、皆どうでもよさそうなんだけど……」
アレンは思ったままを口にした。春と楓、雷牙くらいじゃないか? こだわってるの。エーリッヒ達の言う、エクスプローラーへの登録情報がアレンというのも気にはなるが――
「エーリッヒさん。エクスプローラーの登録情報って更新できないんですか?」
「できるよ。協会に行けば」
なら“神楽”に更新してもいい訳だ。じゃあ、もう――
◆
「じゃあ、“神楽”にしておくか」
「そうよ! それがいいわよ!」
「うん! やっぱり、そっちの方がしっくりくる!」
ルーカスのいない中、春や楓達と決めればこうなるのは分かり切っていたが、アレンは今後、“神楽”と名乗ることにする。
――ルーカスなら、笑って許してくれそうだというのもあった。むしろ――
『そうか! よかったじゃねぇか! ――自分を取り戻せたんだな』
と、歓迎してくれそうにも思う。数年という短い期間だったが、アレンの中でのルーカス像はそうだった。――おっと、これからは“神楽”だったか。
「――じゃあ、皆もこれからは俺のこと、“神楽”と呼んでくれ」
否やを唱える者はいなかった。皆が神楽呼びを始める。
エリスやカールにも今度<念話>で伝えよう。
名前を統一しただけだが、神楽は過去の自分を幾らかでも取り戻せた気がして、少し安らいだ。




