【第三部】第十五章 妹、母との再会
――“中つ国”西部人界――
「ここから先の案内は、琥珀、青姫頼めるか?」
「もちろんにゃ!」
「うむ! 久々の古巣じゃのぅ」
妖虎の追撃を振り切り西の山を抜けて人界に出たアレン達は、琥珀達の案内で楓達の隠れ住む森を目指す。
辺りはすっかり暗くなっており周りはよく見えないが、二人は土地勘があるからか迷うことなく案内してくれた。
◆
「ここじゃ」
「ただの森っぽいけど、この奥か?」
「すぐに見つかったら隠れ里にならないにゃ。凄くわかりづらい場所にあるから、案内するにゃ」
琥珀の言う通り、確かに人目を避けるなら、入り組んだ場所を選ぶだろう。琥珀の案内に従い、森の奥へと進んだ。
どれくらい進んだだろうか。辺りは真っ暗で、近くから動物かモンスターかはわからないが、幾つも気配を感じ落ち着かない。
「こっちにゃ」
「琥珀がいて助かったな。――ってか、青姫もわかるだろ?」
「そうじゃが、琥珀の方が鼻が利くからの。暗いし、任せておけば問題なかろうて」
(まるで犬のような扱いだが、まぁ確かに、琥珀に任せておけば問題無いな)
そんなことを考えながら、そのまま琥珀の案内通り進むと――
◆
「あ、明かりが見えるな」
「楓ちゃんにゃ! 春もいるにゃ!」
「うむ。先程の念話で我が君の帰りを知り、出迎えに来てくれてるのじゃろうて」
青姫の言う通りなのだろう。馬車が見えてくるとこちらに手が振られ、アレン達は手を振り返す。
記憶の欠落さえなければもっと感慨もわくのかもしれないが、その気持ちは素直に嬉しい。馬車が近付くと、楓が駆け寄ってきた。
「お兄ちゃんだ! ほんとにお兄ちゃんだ!!」
「ごめんな。心配かけたみたいだな」
泣きながら抱きついてくる楓を受け止め、優しく頭を撫でる。楓はなおもヒックヒックと肩を上下させるが、しばらくすると落ち着きを取り戻し、アレンから離れた。
「“神楽”。お前が無事――かはわからないけど、生きていてくれてほんとによかったわ」
「ごめん。記憶が欠落しててな。家族の存在すらわからなかったんだ」
遅れて到着した母――春も涙ぐんでいた。アレンとしても、記憶が奪われたせいとはいえ、申し訳なさを感じる。春とも抱き会い、再会を喜び合う。
琥珀達は感極まったのか泣いていた。稲姫も二人と再会を喜び合い、他のメンバーは簡単に名乗り挨拶を済ませた。
「こんなところで立ち話もなんだから、家にいらっしゃい。全員分の布団は無いけど――」
「お気遣いなく。準備はありますので」
「お母さん! 私、ご近所さんに頼んでくる!」
エーリッヒ達は気にしてない様だが、楓が準備をしにさっさと戻ってしまった。そんな光景をどこか微笑ましくアレンは見送る。“相変わらず”働き者だなと。刺激を受けたことで、失われた記憶が戻りつつあった。
「お夕飯、たくさん作ってあるから、いっぱい食べなさい!」
そうしてアレン達は、春に連れられ家へと向かった。




