【第三部】第十三章 山中の逃走劇
――“中つ国”西の山中――
「――ちょ! もう少し平坦な道は無いですか!?」
「妖獣のテリトリーだからね! それは贅沢ってもんさ!!」
西の山に入り、東に進み出したまではいいものの、アレン達は妖獣達に見つかり追われていた。悪路で馬車がガタつく中、御者のエーリッヒが巧みに操車し、東にひた進む。
アレン達を追ってきている妖獣は“妖虎”。――そう。ここは、四神獣“西の白虎”の勢力圏内だった。聖域からは距離があるから大丈夫だろうと思っていたが、考えが甘かったみたいだ。
“ヨウコ”呼びは稲姫の“妖狐”と被るから紛らわしい。白虎の眷属と言うから白いのかと思いきや、オレンジと黒を基調としたオーソドックスな色合いをしていた。どうやら、白は白虎固有の特徴みたいだ。
それはともかく――
サンクエラが馬車の周囲に<結界>をはってくれているので、今のところ実害は無い。幸い神獣クラスはいない様で、幾度も攻撃を受けたが、サンクエラの結界は突破されていなかった。
――いや、実害が無いと言うのには語弊がある。今も妖虎達は続々と集まりつつあり、これ以上増援が来るのは望ましくなかった。
◆
「いっそ蹴散らすにゃ!?」
「それは最終手段だ!! 開戦間近だとは言え、俺達がきっかけになりたくはない!」
無断で縄張りに侵入しておいてどの口がという感じではあるが、話を持ちかけたところで、はいそうですかと通行許可など出るはずもない。急ぐ以上、突破はやむ無しなのだ。
「何で猫科の動物って、“脳筋”ばかりなんでありんすか!?」
「――稲姫ちゃん!? それは、うちも含まれてるにゃ!?」
思わずもれてしまったのだろう。稲姫が周囲の妖虎達を見ながらそう叫ぶ。
妖虎達の攻撃手段は、琥珀同様、気での肉体強化に特化していた。強靭な肉体での体当たり。そして、牙や爪。それらで結界を突破しようと幾度も攻撃を加えてくる。
サンクエラの強固な結界が無ければ、今頃みんな妖虎達の胃袋の中だったかもしれない。そう考えると怖気が走る。
しかし、アレンの見立てによると、こいつらよりも琥珀の方が強そうだ。虎よりも強い猫って一体……。まぁ、白虎や他の神獣クラスになるとわからないが。
狼達は、山に入った当初は散開して周囲の警戒に当たっていたが、今は馬車のすぐ近くを並走している。これは、サンクエラの結界をなるべく小さく、そして強固に維持するための措置だった。
そうして、なおも東にひた進み、もう少しで山を抜け“人界”に出ようかという時。――それは現れた。
◆
「――キャアッ!!」
「サンクエラッ!!」
結界に今までに無い程の重い一撃が加えられ、思わずサンクエラが悲鳴を上げた。慌ててルーヴィアルが抱き支える。
結界はまだ破られていないが、“軋む”のをアレンは感じ取っていた。
「やっぱり来たか。――妖虎の“神獣”だな」
「身体は大きいが、色は他と変わらぬのぅ。白虎では無い、“普通の”神獣なのじゃろうて」
アレンも青姫の意見に同意する。“普通”とは言っても、サンクエラの結界を破りかねない程の攻撃力を有している。決して、油断していい相手ではないだろう。
「あいつを撃退するぞ!!」
「わかったにゃ!」
「うむ! 腕がなるのぅ」
アレン達は、妖虎の神獣に相対した。




