【第三部】第十一章 蛟
――???――
「それで、首尾はどうでした?」
「もちろん確保してきたさ」
少年は大きな石を取り出し、掲げて見せる。石は薄青く輝き、中から巨大な力を感じさせるように煌々と輝いていた。それを見た博士が狂喜乱舞する。
「エェ~クセレントッ!! これ程の力が込められたものは見たことがありません! さすがは四神獣“青龍”といったところでしょうか!!」
博士は少年から石を受け取ると、頬擦りする。少年をして、これ程テンションの高い博士を見るのは初めてだった。
「ですが、さすがのお前も今回は苦戦したようですね」
「――そんなことはない、と言いたいところだけど、今回は苦労したね。“聖域”であれだけの大物と戦ったから、これは仕方ないかな」
少年――アレン達が呼び改めた“シーラー”は、珍しく苦戦を認める。今こうして博士と立ち話をしているだけでも辛そうだ。
「私は青龍の“制御”に入りますので、あなたはゆっくり休んでなさい。回復したら、また出てもらいますよ?」
「やれやれ、相変わらず人使いが荒い。じゃあ、僕は戻るよ。――あ、あと、この“和国の龍”、制御が怪しかったから“また調整して”」
シーラーはもう一つ石を取り出し、博士に渡す。そして、用が済んだとばかりに、あくびを噛み殺しながら部屋を出て行ってしまった。
「やれやれ、ワガママな子です。――ふむふむ。確かに制御が不完全なようですね」
博士は受け取った赤い石を見回しながら独り言ちる。そして、鼻歌交じりに“青龍”と“蛟”の制御、調整に取り掛かるのだった。
◆
――所変わり、馬車内――
「蛟は、過去に和国で臨んだ“マスカレイド”との戦で、俺達共々、捕獲されたんだったな」
「うちはご主人からそう聞いてるにゃ」
「うむ。間違いない」
アレンと琥珀、青姫が状況を再確認する。
「稲姫はシーラーに取り込まれかけたが、すんでのところで核の部分を<憑依>で俺に同化させた。――でも、蛟は取り込まれないまま奴らに連れて行かれた……だったか」
「シーラーでも、蛟は取り込めなかったという話だったにゃ」
「連れて行かれた先で、ろくでもないことをされたに違いないじゃろうな……」
青姫が唇を噛みしめる。悔しいのは皆、一緒なのだ。
「すまないな……記憶をいじられてなければ、あの後何があったか、ハッキリとわかるはずなんだが」
「悪いのはあいつらでありんす! それに、それを言うならわっちだって、主様の中で寝てただけでありんすから……」
稲姫が狐耳をペタンとさせ、うなだれている。アレンは、そんな稲姫の頭をよしよしとなで――
「蛟程の神獣なら、そうそう処分されることも無いだろう。――奴らに利用されていると考える方がしっくりくる」
「そうにゃね。蛟は特に強かったから」
「であれば、奪還しようぞ!」
「青龍を取り戻す時に、蛟も助けるでありんすよ!」
アレン達が一致団結し、互いにうなずき合う。
――必ず蛟を救い出す。皆でそう誓い合った。




