【第三部】第八章 都市タラス
――ドゥーム国・都市タラス――
「おお。リムタリス程じゃないですが、結構栄えてますね」
「関所に近いのもあって、流通が盛んで発展したらしいよ」
タラスの都市に着くと、各々、早速買い出しに向かう。アレンは琥珀達と一緒に商店街の出店に向かった。
「おお! お魚にゃあ!」
「琥珀はほんと魚が好きだな」
「我が君! 菓子屋を発見したぞ!」
「でかしたでありんす!」
琥珀が魚を選び、アレンが店主にお金を払い購入する。青姫と稲姫はさっさと菓子屋に向かって物色してるので、アレン達もすぐ後に続いた。
「店主よ! この店で一番いい菓子を所望するぞ!」
「あいよ! お嬢ちゃん、美人だからおまけだ!」
アレン達が辿りたど着くと、青姫と店主の間でそんなやり取りが。
(ちょ、一番いいのって、高かったらどうするんだ!)
アレンが戦々恐々としながらも、二人の元に向かう。店主がアレンに気付き、「チッ、男連れか……」とため息をついた。
「青姫。程々にな? ――おいくらでしょうか?」
お菓子にしては高かったが、アレンはそのまま購入する。青姫達が喜んでくれているのでよしとしよう。おまけの分、サンクエラ達の分もあるから、むしろ良かったかもしれない。
◆
その後、しばらくアレン達は商店街を歩き回った。
「主様! アレ、何でありんすか!?」
「アレは……“風船”だな」
稲姫が指差す方を見ると、小さな子供が風船を持ち、母親と手を繋いで歩いていた。稲姫が目をキラキラさせてみている。――欲しいんだな。
アレンは、近くにいた風船売りのお姉さんからいくつか買い、稲姫に手渡した。カラフルな風船を手に、稲姫が大はしゃぎする。
「綺麗でありんす!」
「稲姫もまだまだ子供じゃのう」
ムッとした稲姫が青姫を睨む。
「ふん……主様からのプレゼントは何だって嬉しいでありんすよ。――食い意地だけの青姫とは違うでありんすよ」
「――なっ!? 我が君! わらわはアレが欲しいのじゃ!」
「ちょ! 二人とも落ち着け! 俺も財布には限度があって――」
稲姫の挑発にあおられた青姫がアクセサリー店を指差しアレンの手を引っぱっていく。青姫の好きそうな“かんざし”を購入して手渡すと、青姫は花が咲くように笑った。
「うむ! 我が君は、わらわの趣味をよくわかっておる!」
「わ、わっちも!」
「うちも欲しいにゃ!」
「ちょ、ちょっと待って! わかった、わかったから!」
対抗して稲姫と琥珀も欲しがるようになり、稲姫にはリボンを、琥珀には綺麗な石のついたネックレスを選んで渡した。二人とも大喜びだった。――予想外の出費だったが、皆が喜んでくれたことだし、よしとしよう……。
もう、ここまで来たらという思いもあり、アレンはルーヴィアルとサンクエラ用にペアのブレスレットを買った。喜んでくれるといいんだが――
そうして、買い物を済ませたアレン達は馬車に戻った。
◆
「これがお菓子な。――で、これは二人用のペアのブレスレットだ。よかったら使ってくれ」
「ありがとうアレン! ほら、ルーヴィアルも!」
「ああ。――アレン、ありがとうな」
ルーヴィアルが自分とサンクエラにブレストを着ける。二人とも喜んでくれてよかった。特にサンクエラは、ルーヴィアルとお揃いの物が余程嬉しかったのだろう。常に無い程喜んでくれていた。
「……アレン、私には?」
「――あ、あぁ~……。ごめんなさい。レインさんには、俺が買う安物なんてと思って」
「……冗談だから。でも、こういうのは気持ちが大事で――」
サンクエラ達だけでなく、琥珀達もアクセサリーをもらい喜んでいる様を見て、ムスッとしたレインがアレンに問い質す。
アレンは忘れていたとは言えず、冷や汗をかきつつも弁明するのだが……。
「冗談だから」と言うレインだが、ご機嫌斜めなのは明白だった。――これからは、レインにもきちんと買ってこようと心の中で誓うアレンなのだった。
「じゃあ、出るよ?」
「まだ日はあるからな。ガンガン進もうぜ」
エーリッヒが御者台につき、馬車を発進させる。そうして、アレン達は都市タラスを出て、馬車で更に東へと向かうのだった。




