【第三部】第七章 ドゥーム国・関所
――東進中・馬車内――
「そろそろリムン国を出ますね」
「関所か。――おい、狼達を馬車に乗せようぜ」
トニトラス山脈を東に抜けた先は平地だった。丘で野営した後、馬車でさらに東へひた進むと、関所が見えて来た。
ラルフの注意通り、周囲を警戒している狼達は、一旦馬車に戻ってもらった方がいいだろう。
「雷牙、呼び戻せるか?」
「ああ。すぐに戻そう」
雷牙の号令に従い、狼達が直ちに馬車の近くに戻ってきた。馬車を停止させ、狼達を荷台に乗せる。
「窮屈かもしれないけど、少しのしんぼうだから」
アレンは、狼達を覆い隠すように、大きな布を被せる。狼達は特に不満をもらすこともなく、されるがまま従ってくれた。これも、雷牙の指導のたまものだろう。
「みんな、耳や尻尾を隠してくれないか? ルーヴィアルとサンクエラは角も」
「……わかったにゃ」
「ああ。できないことは無いが……」
琥珀とルーヴィアルから少し嫌そうな反応が返ってくる。前に琥珀が「少し疲れる」と言っていたし、面倒なのだろう。
「余計な揉め事を避けたいんだ。関所を抜けるまででいいから」とアレンがお願いすると、渋々ながらも従ってくれた。
準備が整い、関所へと向かった。
◆
――ドゥーム国・関所――
「ギルド“青ノ翼”です。通行許可を」
「はい、結構です」
エーリッヒが所属を告げて証拠となるエンブレムを見せるだけで、簡単に通してもらえた。
プラチナクラスの“青ノ翼”は、この辺りでも名が通っているのだろう。衛兵はちらりと馬車の中をうかがうだけで、余計な詮索はせずに、そのまま先に進むよう手で差し示す。アレン達は関所を抜けてしばらく進んだ。
「さすがは“青ノ翼”ですね」
「こういう時、ギルドで名を上げておくと融通が利くんだよ。――まぁ、役得だね」
「……その分、成果報告とか面倒なこともあるけど」
「違ぇねぇ」
確かに今後、こういうことも頻繁にあるだろうから、やはりギルドに所属した方がいいかもなとアレンは思い直す。
だが、今はそれどころじゃない。“中つ国”の問題――“妖獣と人間の間で起きようとしている戦争”――を何とかしないと。
戦争なんて大規模なこと、自分達だけでどうなるものでもないけど、因縁のある“マスカレイドから青龍を奪還する”。そうすることが問題の解決になると信じ、アレン達は、何としてでもやり遂げようとしているのだった。
◆
「この先もう少し進むと、“タラス”っていう都市があるよ。必要なものを買い足そうか」
「そうですね」
「……むぅ。また馬車にこもらなければいけないのか?」
身体がなまってしまう、と雷牙が不平をもらす。
「耳や尻尾を隠したままなら、外に出てもいいけどね。それでいいか?」
「うむ、構わんぞ。さて、楽しみだな!」
雷牙がいい顔でニカッと笑う。よっぽど退屈だったのだろう。
「サンクエラ、俺達も行くか?」
「私は目が見えないから、迷惑をかけしまうわ。それに、スペルークスもいるしね。馬車の中で結界をはってるわね」
「じゃあ、お土産を買ってくるよ。何かリクエストはある?」
サンクエラとルーヴィアルは馬車内に待機するとのことなので、アレンは二人に何か買ってこようかと話を持ちかける。サンクエラがお菓子がいいとのことだったので、探してみることにする。
「うちらも行くにゃ!」
「楽しみでありんすね」
「うむ! 何か珍しいものはあるかの」
妖獣三人娘は当然のごとく街に繰り出すようだ。青姫が増えて三人になり、更にかしましさが増した気がする。みんな楽しそうで何よりだ。
「じゃあ、行くよ」
エーリッヒがそのまま馬車を進め、都市に向かって行った。




