【第三部】第四章 “宵の明星”の“放浪者”
――東進中――
「ふむ……あれから、そんなことが」
「いやぁ、ほんと、死ぬかと思ったよ」
「その槍は“神託武器”でな。神が造った、いわば特別製だ。防ぎ切れたのは、本当に運がいい」
馬車の中、“セラーレの森”で起きたことを雷牙に語り聞かせる。ルーヴィアル達も交え、話は盛り上がっていた。
アレンは戦利品の“神槍グングニル”を手に取り皆に見せる。ルーヴィアルが言うには、神が造った武器とかでスゴく貴重な物であり、特殊能力も備えていることがあるのだとか。
「少し持たせてくれぬか?」
「はいよ」
アレンは雷牙に槍を手渡す。槍を受け取った雷牙が、感嘆のため息を漏らした。
「――ほう、これは見事だ。それに、持っているだけで力も湧いてくるとは」
「装備者の<身体能力強化>もできるんだ! 凄いだろ!?」
アレンも自慢げに人差し指を立てて力説していた。苦労してゲットした甲斐があるというものだ。
「それ程貴重な物であれば、元の持ち主が取り返しに来るのではないか?」
「や、やめろよ……。不吉なことを言うなよ、雷牙……」
雷牙がしれっと怖いことを言う。あの“一角獣”ジェニスなら、本当にありそうだ……。
「さすがにそれは無いだろう。“神界”を離れてここまで追ってくるとは考えにくい」
「ええ。“一角獣”は特に“人界”との接触を嫌うし、だからこそ私達もこちら側に逃げて来たのだしね」
ルーヴィアルとサンクエラが否定してくれたので、アレンは安堵する。しかし、同時に気になることも――
「サンクエラは大丈夫なのか? ――その、“人界”の空気が合わなかったりしないか?」
「私は大丈夫よ。心配してくれてありがとう、アレン。“一角獣”は潔癖症だけど、私はあまりそういうところが無いの。生まれつき目が見えないからかしらね?」
サンクエラが気にした風も無く、朗らかに笑う。それを見て、アレンも顔をほころばせた。
「アレン。やはりお前からは“危険”を感じる。――サンクエラ、気を付けるんだぞ?」
「あら、嫉妬してくれるの? ルーヴィアル」
「ち、違うんだって! そういうつもりじゃなくて!」
「……つまりは、“天然ジゴロ”」
「レインさん!?」
ルーヴィアルだけでなく、どことなくムスッとしているレインからも追い討ちをかけられ、アレンが気圧される。
「にゃはは! ご主人はやっぱりご主人にゃ!」
「うむ! やはり、男児はこれくらい元気でないとのぅ」
「わ、わっちは主様の気が多いのは困るでありんす!」
「お前は大物になるぜ、アレン」
馬車の中は賑やかだった。
◆
「そう言えば、アレンは記憶喪失だったって言ってたよな? 今はもう大丈夫なのか?」
ラルフがふと興味を持ったのか、聞いてくる。
「はい。昔馴染みに会えたからか、だいぶ記憶が戻ってきたみたいです。――まだ思い出せないこともありますけどね」
「……学校に入るまではどうしてたの?」
レインも混ざってきた。やはり、興味があるのだろう。
「ルーカス――おじさんに拾われて、一緒に旅をしてました」
アレンが懐かしさに目を細める。色々なところに行ったっけ。危ないことも多かったけど、楽しかったな。
「ルーカス? ――もしかしてだが、まさか、“ルーカス・デイビス”じゃないよな?」
「? え、そうですけど、ご存知なんですか?」
アレンは何気なく答えたが、“青ノ翼”の三人がざわついた。
「――おま! ルーカス・デイビスって言ったら、“ブラッククラス”ギルド“宵の明星”の“放浪者”じゃねぇか!! まさか、知らないのか!?」
「……超有名」
「あはは! でもなんだか、アレンらしいね」
御者台にいるエーリッヒも会話に混じってきた。三人とも、呆れ顔でアレンを見ている。当のアレンとしては少し居心地が悪い。
ギルドの中での実質的序列第一位――“ブラック”クラスのことなんて、世間では知っていて当たり前らしいが、アレンはあまり、その辺の情報は気にしたことがなかった。
“エクスプローラー”を目的のための手段としか考えていなかったが、今後はやはり、もっと広く知ろうとすべきだろう。
――いや、待て。というか――
「い、いや、一年半くらい、俺とずっと一緒にいましたよ? ――あ、人違いかもしれないですね」
「……どんな人だったの?」
アレンはルーカスの風貌を皆に伝える。
「会ったことは無いが、聞いてた通りだな」
「……うん。見事に一致」
「あの人は、“放浪者”って呼ばれるくらい自由な人らしいから、他のメンバーと長期で別行動も有り得るね」
どうやら、他人という線も無さそうだった。
「じゃあ、ほんとにそうみたいですね。今頃、どうしてるのやら――」
アレンは、だいぶ前に「大事な用事が出来た」と、自分を学校に預けて旅立ったルーカスに思いをはせるのだった。




