【第三部】第一章 今後の方針
――“青ノ翼”ホーム・広間――
「では、情報を整理しようか」
楓との念話を終えた後、“青ノ翼”エーリッヒが話を切り出す。
ここにいるのは、同じく“青ノ翼”のラルフとレイン。そして、アレンと稲姫、琥珀、青姫の幼馴染妖獣三人娘。
そして、“セラーレの森”から同行している、幻獣――人間社会で存在自体が伝説として伝えられている妖獣――の“一角獣”サンクエラと“二角獣”ルーヴィアル。
さらに言うなら、二人の間に生まれたばかりの赤ん坊――“三角獣”スペルークスだ。
稲姫は妖狐、琥珀は妖猫、青姫は青鷺と、それぞれに異なる種族だが、皆出身はアレンと同様、東の島国――“和国”であり、各々独自の着物を着ている。
◆
「“中つ国”で、妖獣の中でも“守護獣”として崇められている“四神獣”の一体、“東の青龍”が、“人間のとある組織に襲われ捕らえられた”と」
「はい。そんなことができるのは、組織の中でも、“奴”がいた可能性が高いと思います」
エーリッヒの説明にアレンが補足する。ここで、ラルフから声が上がる。
「なぁ、いい加減、“とある組織”やら“奴”やらの言い方を改めねぇか? 話しにくいったらありゃしねぇ」
「……呼び名を決めるべき」
レインもラルフに同調する。アレンも同じことを考えていたので、異論は無い。
「では、奴らの“組織”から。奴らの特徴――仮面をつけた集団であることから、“仮面舞踏会”という意味で、“マスカレイド”はどうでしょう?」
「結構シャレてるじゃねぇか。それでいいわ」
他の皆にも異論は無かった。では、次に――
「では組織は“マスカレイド”に。次、その中でも特記戦力と言える、仮面をかぶりマントを羽織った少年の呼び名を決めます。その能力――“根源に繋がる門を閉める”、そして“妖獣を取り込む”という、<封印>とも言える能力から、“封印する者”という意味で“シーラー”なんてどうでしょう?」
「わかりやすくていいと思うにゃ」
これにも異論は無かった。組織は“マスカレイド”、仮面とマントの少年は“シーラー”だ。これで、話もしやすくなるだろう。
◆
「では話を戻します。楓さんの話だと、“マスカレイド”が青龍を襲って捕獲したと。そして、それに怒った他の四神獣が、青龍の返還を求め、戦争をしかけつつあると」
「ええ。加えて言うと“マスカレイド”は、三年前に“和国”で俺達“御使いの一族”に戦争をしかけ、一族の者達を殺して妖獣を奪い、その後の“和国人妖戦争”の発端となった組織でもあります」
「今度は“中つ国”で同じことをしでかしたって訳か。許しちゃおけねぇな」
皆の表情が険しくなる。奴らが妖獣を集めて何をしようとしているのかは知らないが、荒らしたいだけ荒らして妖獣と人間の戦争を引き起こしている。“第二次中つ国人妖戦争”とも呼べる戦争が起きつつあるのだった。
「はい。ですが、まずは今の一触即発の状況を何とかしないと。これから俺達は、“中つ国”に向かい、隠れ里にいる楓達と合流したいと思います。――皆もいいよな?」
「もちろんにゃ!」
「当然でありんす!」
「隠れ里といえど、楓達が心配じゃ。疾く戻るとしようぞ」
楓との念話時にも了承を得ていたが、念のため再確認する。だが先程同様、幼馴染妖獣三人娘に異を唱える者はいなかった。
「僕達も行くよ」
「お気持ちは有難いですが、危険すぎます。貴方達まで戦争に加わる必要は無いですよ」
エーリッヒが動向を申し出てくれるが、こればかりは事情が事情だけに頷けない。アレンは断ろうとするが――
「やれやれ、悲しいな。もう僕達はとっくに“仲間”だと思ってたんだけど」
「そうだぜ! お前達もそうだが、特に青姫には命を救われた恩もある。むしろ今がその恩を返す好機だな」
「……人手は多い方がいい、でしょう?」
“青ノ翼”の面々が迷わず笑顔でそう告げる。アレンは未だ悩んでいるが――
「我が君! この者達の実力なら申し分無いことはわかっておるはずじゃ! 今は、“マスカレイド”に勝つためにも、戦力は必要じゃろ? ――もう、二度と負けないためにも」
「そうでありんす! わっちはもう“二度も”あいつ――“シーラー”に敗けているでありんす! 今度こそ、絶対! ――絶対! 勝つでありんすよ!!」
青姫と稲姫が、迷うアレンの背中を押す。そうだった。――失う怖さを知り、必要以上に臆病になっているのかもしれない。“今度こそ絶対に勝つ”ためにも――
「そうだな。――エーリッヒさん、ラルフさん、レインさん。先程はすみませんでした。是非とも皆さんの力を俺達にお貸しください」
「うん、よろしくね」
「おう! 任せとけ!」
「……皆は、私達が守る」
三人とも、快く同意してくれた。そして――
◆
「なら、俺達も行こうか。――サンクエラ」
「ええ。私達も恩がありますからね」
ルーヴィアルとサンクエラも動向を申し出てくれた。しかし――
「二人はお子さんが生まれたばかりだし、ここにいた方がいいんじゃ――」
「皆がいない中、ここに残ってもな」
「それに、私の<結界術>は広域に展開できるから、きっとあなた達の役に立てると思うの。――でもそうね。私は目が見えないし、この子を置いて戦場には行けないから、私はこれから向かうという隠れ里に籠ってるわね?」
隠れ里を守っていてくれると言う。危険であることには変わりないが、正直、二人の存在は、凄く心強い。アレンは二人に頭を下げる。
「ありがとう。恩に着ます」
「よせ。お互い様だ」
「ええ。気にしないでちょうだい」
アレンは二人にも同行してもらうことにした。もちろん、スペルークスも連れて。何が何でも三人を隠れ里に無事に連れて行くことを、アレンは心に誓う。
「では、皆で向かいましょう。まずは“中つ国”の隠れ里に行き、楓達と合流です」
「急だけど、急いだ方が良さそうだから明朝発とう。皆、荷物を今日中にまとめておいてね」
そうして、アレンとエーリッヒの号令の下、皆が早速準備に取り掛かった。




