【第二部】第六十三章 “中つ国”での異変
――“青ノ翼”ホーム・広間――
「そうか、そんなことが……」
「私達妖獣の力を“封じて”、更には“取り込む”なんて……」
話を聞いたルーヴィアルとサンクエラが驚きを露わにする。
「二人は、この力に何か覚えは無いか?」
「いや、無いな。――サンクエラはどうだ?」
「私も無いわ。そんなの、“人”の成し得る力じゃないと思うわ」
その力が何か分かれば対策の役に立つと思ったんだけどな。やはり、地道に戦力を強化するしかなさそうだ。
「戦うなら、俺も力になる。お前達には返しきれないくらいの恩があるからな」
「私は結界を張るくらいしかできないけれど、力になるわ」
「二人ともありがとう。――でも、二人には子供が生まれたばかりだからな。スペルークスのいいお父さんとお母さんになってあげてくれ」
アレンは二人の気持ちだけありがたく受け取っておく。こちらの事情で殺し合いに巻き込むことはしたくない。
二人の力を使える様になっただけでも感謝しているのだ。ルーヴィアルとサンクエラは申し訳なさそうにしつつも頷いてくれた。
◆
「じゃあ、話を戻すけど、今後の方針だな。――“中つ国”に行こうと思う」
「楓ちゃん達のところに行くにゃね?」
琥珀の問いにアレンは頷く。
「ああ。やはり一度、楓達の様子は確認しておきたい。無事かどうか――っと、そうだ! 琥珀! <念話>で楓達に無事か確認しないか?」
「――そうにゃ! その手があったにゃ!!」
アレンもだが、琥珀もその可能性を失念していた。そうだ、<念話>のアーティファクトを使って楓と連絡を取ればいいじゃないか!! 若干、呆れ気味の視線を周囲から感じるけど……。
――や、やめてくれ! そんな目で俺を見ないでくれ!
「じゃあこれを使って楓に<念話>してみてくれ」
「う、うちは魔法を使えないにゃ」
「なら、わらわがやろう。これを起動して、楓を思い浮かべればよいのかえ?」
指輪型の<念話>のアーティファクトを青姫が受け取り、意識を集中した。
◆
「――つながった様じゃ。皆にも繋ぐのは……こうかの?」
(お兄ちゃん、生きてたって本当!? それに、稲姫ちゃんや琥珀ちゃんも無事なの!? スゴく心配してたんだからね!?)
繋いだ瞬間、大声で呼び掛けられた。アレンは楓の記憶を揺り起こされる。その声に、ひどく懐かしさを感じた。
(ああ、連絡を取らなくて悪かったな。楓達は元気か?)
『うん、皆元気だよ!』という返事を、アレンは期待していたのだが――
(大変なの!! “四神獣”が“人界”にまでやって来て、人間との戦争が始まりそうなの!!)
緊迫した楓の大声が念話で皆の頭の中に響いた。
◆
(どういうことだ? 落ち着いて説明してくれ)
(ご、ごめんなさい。えっとね――)
楓は、隠れ住む“中つ国”で起きていることを順序立てて教えてくれた。
それは――
(“四神獣”の一体――“青龍”が、人間達に襲われて捕らわれたの! それで怒った他の四神獣が、“人界”の首都にまで来て、『青龍を返せ』って――)
(――は? 約定を破って人間が攻め込んだっていうのか? 誰がそんな命知らずなことを……)
(楓ちゃん、もしかして――)
(そうよ、琥珀ちゃん。――“私達の里を襲った奴ら”の仕業なの!)
およそ三年前、アレン達のいた“和国”を戦乱に陥れた“奴ら”が、“中つ国”でも同様の悪事を働いた。そして、人間と妖獣の間で再び戦争が起ころうとしている。
アレン達は、戦乱の渦へと巻き込まれようとしていた。
【第二部・旅立ち編・完】




