【第二部】第五十九章 対“一角獣”戦 ③
――“セラーレの森”・結界領域中部――
「――アレン! すぐに飛び乗れ!! 逃げるぞ!!」
「へ?」
切迫したルーヴィアルに間抜けな声を返すアレン。アレンがルーヴィアルの視線を追うと――
「――はぁ!?」
立派な体躯をした“一角獣”を先頭に、散らばっていた隊員達が急速に押し寄せてくる。
「主様!!」
「わ、わかった!!」
“神槍グングニル”を手に持ち、アレンはルーヴィアルに跨る。
「重いから捨てていけ!!」
「捨てたらまた使われるじゃんか!!」
アレンと口喧嘩しながらも、ルーヴィアルは全速力で駆け出した。
◆
「おのれ!! 持ち逃げする気か!! ――皆の者、追え!! 右翼や左翼にも伝えろ!! 絶対に逃がすな!!」
「「「ハッ!!」」」」
伝令が散り、残りの者がそのまま追い掛ける。
◆
「ルーヴィアル!! 距離を詰められてるぞ!!」
「仕方あるまい!! 重いのだ!!」
アレンと稲姫を乗せて、さらに“神槍グングニル”まで持っているからな。
「いっそ戦うか!?」
「いや、伝令らしき者が散っていった! 増援を呼ぶつもりだ!! 集団に囲まれ接近戦を挑まれたら、流石に分が悪い!!」
確かに。アレンは<肉体活性>があるから大丈夫だとしても、二人の身が危ないだろう。
攻撃しようにも、<蒼炎>は結界に弾かれる。<紫電>でも突破は無理に思える。結界を突破できる攻撃、結界を突破できる攻撃……アレンは思考をめぐらせる。――そして、ふと思い出した。
「ルーヴィアル!! お前、<複製>できるんだろ!? この槍を増やせないか!?」
「今は流石に無理だ!! 集中して<侵食>する必要がある!!」
今も駆けているし、それどころではないのだろう。
「<侵食>ってなんだ!?」
「俺達“二角獣”の固有技能は<侵食>だ! 対象に力を浸透させて支配下に置くのが本来の能力であり、<複製>はその応用で支配下に置いた対象を模倣して生み出してるにすぎん!!」
なるほど……であれば、彼女とも“信頼”を築けていたんだ。きっと、ルーヴィアルとだって! アレンは目を閉じ、集中する。
◆
内なる世界に意識を向ける。そして、新たな“門”を見つけた。彼女同様、造りが稲姫達とは違う。でも、原理は同じだ。
アレンはゆっくりと“門”を開く。すると、黒い奔流がアレンの内に流れ込んでくる。アレンは奔流に身を委ねた。
アレンは目を開け、手に持つ“神槍グングニル”に今得たばかりの力を通す。この槍が特別なのか、“容量”が大きく時間が掛かる。
「逃がさんぞ!!」
すぐ後ろに純白の白馬――ジェニスが急迫している。角から放たれた<光子線>を稲姫が<魔素分解領域>で消し散らす。だが、左右からも“一角獣”が現れ、次第に囲まれつつあった。
「――出来た!!」
「何だアレン!! また重くなったぞ!?」
左手にオリジナルを持ちつつ、今造り出した“模造品”を右手に握る。“黒いグングニル”だった。
◆
「おのれ!! 神槍までも穢したか!!」
もう、どうやっているかは気にしない。ただ、不遜な人間――アレンを殺しにかかる。さらに速度を上げようと、ジェニスが脚に力を込めた瞬間――
「グァァッ!!」
アレンから投擲された“黒いグングニル”に結界を破られ、胴体に深々と突き刺された。ジェニスはたまらず横転する。
「ジェニス様!!」
「お、お前達は奴を追え!!」
駆け寄ってくる隊員達に指示を出すも――
「う、うわぁ!!」
「こんなの、どうやって――!」
アレンが次々と“黒いグングニル”を造り、隊員達に投擲していた。ジェニスですら防げなかったのだ。他の隊員に防ぎようはなかった。
◆
「アレン!! お前という奴は!! 何故、俺の力を使える!? それに“一角獣”の力も!!」
「お前達と“仲良くなったからだ”――よっ!!」
“黒いグングニル”を“一角獣”に投げつけつつ、ルーヴィアルにそう応える。
――そう。<神託法>は、“信頼”を元に妖獣の力を得る。アレンの言ったことは、間違ってはいなかった。
「もう追っ手はほとんどいない!! このまま駆け抜けるぞ!!」
「おう!!」
「死ぬかと思ったでありんす~!!」
安堵からか、稲姫が涙目だ。今回はかなりギリギリだったからな。危険な目に合わせてしまい、稲姫に申し訳なく思う。
「ははは!! でもとにかく、――俺達の勝ちだ!!」
「ああ!! 気分がいいな!!」
ノリのいいルーヴィアルと笑い合いながら、アレンは“セラーレの森”を南に駆け抜けていくのだった。




