【第二部】第五十七章 対“一角獣”戦 ①
――“セラーレの森”・結界領域中部――
「話には聞いていたが、これ程とはな……」
ルーヴィアルから呟きがもれる。
「だから言っただろ? 『稲姫の<魔素操作>は強力だ』って」
ジェニスから放たれた<光子線>は眩い輝きを放ちつつアレン達を襲ったが、到達する前に全て霧散した。
今も全周囲から他の隊員達による<光子線>を受けているが、その全てが同様に霧散し、アレン達に届くことは無かった。
稲姫が<魔素操作>の応用で自分達の周囲に限定して分解領域を展開することで、光属性の魔素を収束して放たれた<光子線>は、領域に触れた瞬間その悉くを搔き消されたのだ。分解された光属性の魔素は、稲姫に吸い込まれる。
もうこれは技だろう。アレンはこの領域を<魔素分解領域>と呼ぶことにする。
「おのれ……! 珍妙な技を!!」
必殺のつもりで放ったのだろう。ジェニスが苦々し気にアレン達を睨む。周囲に散らばっている“一角獣部隊”の隊員達も、驚愕からざわめいていた。
「じゃあ、次はこっちの番だな」
アレン達が反撃を開始した。
◆
「蒼炎!」
アレンがそう叫び手を突き出すと同時、ジェニスや周囲の隊員達を蒼炎が飲み込む。だが――
「あ~……。やっぱり<結界>は破れないか」
ジェニスだけでなく、他の隊員達も結界を張って防いでいた。サンクエラから『“一角獣”は<結界術>が得意』と聞いていたから予想通りではあるが、こちらも有効打を与えるのは難しそうだ。騎乗しながらじゃ、<肉体活性>も使い道がな……。
「ふん……所詮は人間。口だけか」
ジェニスが嘲笑い、他の隊員達も余裕を取り戻す。アレンがカチンと来た時――
「俺に任せろ。――アレン、“この領域”は闇属性の魔素を通せるか?」
「ん? ああ、稲姫、できるよな?」
「できるでありんすよ」
ルーヴィアルが何かするようだ。稲姫が<魔素分解領域>を調整し、闇属性の魔素を通る様にする。すると――
「出でよ、<一角獣シャドー>」
ルーヴィアルの呼び掛けに応じる様に、地面から三体の影が盛り上がり、馬の形態を取る。黒馬なので“二角獣”だと思いがちだが、角が一本だ。これは、ルーヴィアルの言う通り――
「おのれ! またも外法を用い、我らが同胞を辱めるか!」
「ふん……ただ<複製>しているだけだ」
激昂するジェニスにルーヴィアルが淡々と答える。
「さて、返礼といこうか」
ルーヴィアルの意思に従う様に、<一角獣シャドー>の角先に、漆黒の光が収束する。そして――
◆
「ぐぁぁっ!」
「ひ、ひぃっ!」
<一角獣シャドー>から放たれた黒い<光子線>が、周囲を取り囲む隊員達を襲う。
出力が高いのだろう。隊員達の張っている結界を突き破って蹂躙している。隊員達は足をもつれさせながら逃げ惑うしかなかった。
「おのれっ!!」
ジェニスはやはり別格なのだろう。結界で<光子線>を受け止めつつ、剣を構えてこちらに歩み寄ってくる。接近戦をしかけるつもりのようだ。
「じゃあ、いっちょタイマン張ってみるか!」
「気をつけろ、奴は近接戦も得意だ」
「主様! ファイトでありんす!」
アレンはヒラリとルーヴィアルから飛び降り、双剣を鞘から抜きつつ、向かってくるジェニスに歩み寄る。そして――
「<肉体活性>、――<蒼炎剣>、<紫電剣>」
<肉体活性>で身体能力を跳ね上げ、双剣に炎と雷を宿した。
「そんなこけおどし!」
ジェニスがアレンに斬りかかってくる。だが――
「――ぐぁっ!!」
「さすがにここまで接近すると結界は張れないか」
アレンが左手に持つ紫電剣でジェニスの直剣を受けると、ジェニスが感電して痙攣する。伊達に雷を纏っている訳ではない。アレンは、隙有りとばかりに右手の蒼炎剣でジェニスに斬りかかる。
「ぐっ!!」
間一髪のところで痙攣を脱したジェニスが緊急回避で蒼炎剣を躱す。しかし、既にアレンは懐に潜り込んでいる。紫電剣で袈裟懸けに斬りつけるが――
硬質な音が鳴り響き、アレンの紫電剣が弾かれた。――そう認識した瞬間、アレンは嫌な予感を感じ、急ぎバックステップで距離を取る。
「堪え切れず使ったか」
ルーヴィアルがそう呟く通り、アレンがジェニスに視線を戻すと――
「おのれ! 人間如きに“この槍”を使うことになろうとは!!」
“神槍グングニル”を構えたジェニスが、怒気も露わに覇気を漲らせていた。




