【第二部】第四十九章 会得 <蒼炎剣>/<紫電剣>
――“セラーレの森”――
「人の手つかずの自然って感じですね」
「こんな辺境まで来る方が珍しいからね。“神界”に行く命知らずなんて、まずいないし」
アレン達は朝一番に“セラーレの森”に入り、草木をかきわけ先へと進む。木々が生い茂り、人の通る道が整えられている訳でもない。まさに野生という感じだ。
「皆さんも、ここは初めてですか?」
「……うん。知識としては知っていたけど、これは想像以上」
レインさんも歩き辛そうだ。杖の先を木に引っ掛けない様、胸元に抱えていた。
「デバイスに<結界>の場所が記録されてるから迷わないけどよ。――木々が鬱陶しいな」
ラルフは皆の先頭を進み、大剣で邪魔な木の枝を切り飛ばしながら、道を作ってくれていた。
「我が君! モンスターが来るぞ! 北からじゃ!」
「わかった! 助かる青姫!」
上空から監視をしてくれている青姫から報告が入る。皆がモンスターの襲来に身構えた。
◆
「<旋風乱撃>!!」
ラルフが襲い掛かってきたモンスター――“フォレストベア”を武技<旋風乱撃>で寄せ付けずに圧倒する。
剛力により、間断なく幾度も繰り出される大剣でモンスターを間合いの内に入れず、フォレストベアが一方的に斬り刻まれ――そして、倒れ伏した。
「<エンチャント―ウィンド―>、<瞬迅>」
エーリッヒは魔法で直剣に風を纏わせ、武技<瞬迅>で強化した敏捷を活かし“フォレストウルフ”を斬り刻んでいた。
フォレストウルフは敏捷さと牙の鋭さが要注意のモンスターだが、相手の土俵でさらに上回って見せるエーリッヒの妙技には驚かされる。間もなく、フォレストウルフも地に沈んだ。
――負けてられないな。
アレンは目の前に迫りつつあるモンスター――“エルダートレント”に向き直る。
◆
「そう言えば、“こうする”とどうなるんだ?」
アレンは思いついたことを試してみる。双剣を抜き――
「<蒼炎>」
双剣に<蒼炎>を纏わせ、<肉体強化>で跳ね上げた脚力をもってエルダートレントの懐に瞬間移動の如く踏み込んだ。そして、双剣を振るうこと二度。
「グオォォォッ……!!」
全身を<蒼炎>に包まれたエルダートレントが身じろぎしながら焼き尽くされる。後には灰が舞い散った。
◆
「いやぁ、君には驚かされてばかりだけど……青姫の<蒼炎>って、武器にも宿せるんだね」
「身体に纏えるなら武器にもって考えて、試してみたんですよ。思っていた以上に敵への炎上効果もありましたし、成功ですね」
モンスターの群れを倒し終え、皆がアレンの元に集まる。双剣に宿した<蒼炎>はアレンが念じるだけで解除することが出来た。剣の状態にも特に異常は見られない。便利な能力で汎用性が高そうだ。
「我が君! 流石じゃ!」
「――わぷっ!」
例の如く上空から胸元に飛び込んでくる青姫を抱き留め、アレンは勢いを殺せずその場で横向きに一回転する。青姫は上機嫌で今にも飛び上がりそうだ。
「離れるでありんす~!」
これまた例の如く稲姫が青姫を引き剥がしにかかる。だが、今回は青姫も素直にされるがまま剥がされた。
「うむうむ。我が君の状態が想ったよりも良くてな。つい興奮してしまったのじゃ」
「心配をかけてすまないな。でも、見ての通りだいぶ調子がいいぞ」
何度か双剣に<蒼炎>を付与して解除してを繰り返す。思うがままに操れ、特に違和感も無い。
「まったく、ズルいな……。俺にもよこせよ」
「……この前見せてくれた<紫電>も纏わせられるの?」
レインの疑問に応える様、アレンは早速試してみる。<蒼炎>の時と同じ要領で――
「<紫電>」
「……できた!」
双剣に紫電が纏った。アレンが何度か素振りしても、紫電はそのまま剣に付与されている。レインも手を叩き喜んでくれていた。
ならこれはどうかと、アレンはまた思いついたことを試してみる。すると――
「双剣それぞれに<蒼炎>と<紫電>を分けて纏わせられるみたいです」
「器用だね。――いや、スゴく便利な力で妬ましいよ」
本人の言う通り、称賛を通り越し、嫉妬がエーリッヒからアレンに向けられる。
右手に<蒼炎>の宿った剣を、左手に<紫電>の宿った剣を持ち、アレンもそのカッコ良さにご満悦だった。
こうして、アレンは応用技能――<蒼炎剣>と<紫電剣>を会得した。




