【第二部】第四十八章 馬車の御者
――北上中――
それからしばらく馬車での旅は進んだ。
「エーリッヒさん、御者のやり方、教えてもらえませんか?」
「アレンも興味があるのかい?」
「ええ。今後に活かせるかと思いまして」
アレンは御者台に乗り、エーリッヒの隣に座る。
「じゃあ、見てて」
エーリッヒが手綱を操り実演してみせる。停止や発進、カーブの曲がり方など、テクニックがある様だ。
「はい、じゃあ、これ手綱。隣でフォローするからやってみて」
「ありがとうございます」
そうしてアレンは初めての御者にチャレンジする。
◆
「うわっとっと!」
「そこは、もうちょっとこうして――」
エーリッヒから指導を受けつつ手綱を操る。
「なんか馬車が大きく揺れたが――ああ、そういうことか」
「ご主人だけずるいにゃ!」
荷台にいるラルフと琥珀が何事かと御者台を覗き事情を察する。ラルフは納得顔で荷台に引っ込み、琥珀は自分もやってみたいと主張し出した。
「じゃあ、もう少ししたら琥珀に代わろうか。それまではアレンのを見ててね」
「わかったにゃ!」
アレンはしばらく御者を続け、だいぶ慣れてきたところで、エーリッヒの指示を受け琥珀と交代した。いつの間にかエーリッヒの琥珀達への“さん”付けも無くなり、だいぶ打ち解けた様だった。
「はいよー!」
「――ちょ! 琥珀、慣れてないんだからゆっくり!」
エーリッヒも引く程、琥珀の操車は荒かった。上手いのだが、すぐにスピードを出そうとする。
「……何事! ――あぁ……」
「楽しそうでありんすね」
今度はレインと稲姫が荷台から顔を出し状況を確認する。レインは琥珀の操車と分かると荷台に引っ込み、稲姫は興味深々に見ていた。
「次はわっちもやってみたいでありんす」
「じゃあ琥珀、稲姫に代わろうか」
「え~……」
これ幸いとばかりに稲姫に操車を代わる。琥珀はまだやり足りなさそうだが、大人しくエーリッヒの指示に従った。
「そうそう。うん、筋がいいよ」
「えへへ……」
どうやらアレン達の中で稲姫が一番御者のセンスがあった様だ。馬もご機嫌に言うことを聞いてるように見える。――琥珀の時は必至な形相だったな。
「この子達にも気持ちがあるからね。稲姫の優しさが伝わってるんだと思うよ」
チラッと琥珀に目を向けるエーリッヒだが、琥珀は視線を気にすることもなく、気持ちよさそうに荷台で横になっていた。エーリッヒは小さくため息をつき――
「――じゃ、じゃあ、あと少しだし、このまま行っちゃおうか」
前を向き気を取り直し、稲姫に手綱を握らせたまま、馬車を目的地へと向かわせた。
◆
――“セラーレの森”・入口――
「ここが“セラーレの森”……」
「鬱蒼としてるでありんすね」
稲姫の言う通り、まさに自然そのままと言う感じで草木が青々と生い茂っていた。
「もう遅いし、入るのは明日からだけどね。じゃあ、野営をしようか」
昨晩同様、皆で野営をした。明日は結界のあるという奥地まで一日歩くらしいからな。休息はゆっくり取らないと。
――皆で代わる代わる休み、英気を養った。




